交通事故で家族を亡くした“被害者”と、犯罪“加害者”たちの共同生活。双方は歩み寄ることができるのか?奇妙な日常を描くヒューマンドラマ『ノラの家』

マンガ

PR公開日:2024/1/7

ノラの家
ノラの家』』(夕海/白泉社)

日々、目を覆いたくなるような事件や事故が発生している。私達がもし事件に巻き込まれて「被害者」となったり、事件を起こして「加害者」となったりしてしまったら、どう人と関わっていくのだろうか。

ノラの家』』(夕海/白泉社)は被害を受けた経験を持つ主人公・実斗と、かつて加害を起こしたことがある者達が共同生活を送る様子を描いた作品である。

突然「被害者」となってしまった人生

 裕福な家庭で生まれ育った実斗は、自分の誕生日に突然交通事故に巻き込まれる。両親は死亡、自身は事故の後遺症で一部の指に障害が残った上、債務整理で自宅を売却することになり、作家・浅賀に買い取られた自宅を追い出され路頭に迷う。

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 浅賀に住まわせてほしいと懇願し渋々承諾されるがその家は犯罪を経験した「加害者」の人達のみを無料で住まわせるシェアハウスとして購入されたものであり、たった一人「被害者」として彼らとの生活を余儀なくされる。

ノラの家

ノラの家

 不満を抱く「加害者」達の前で家主である浅賀が「試しに三ヶ月共に生活してみてはどうか」と提案したが、これは実斗が三ヶ月の間に「加害者」達の信頼を得なければならないという意味だ。

 果たして実斗はこの先どう信頼を勝ち得ていくのだろうか。実斗という「被害者」と「加害者」の交流は、一体どんな化学反応を見せてくれるのだろうか。

「悪」一辺倒ではない加害者達

「加害者」として登場する人物は皆「加害者である」と言わなければ気付かない普通の容姿や人となりをしている。そして「加害者」と言っても、突然のアクシデントで人の命を奪ってしまった者、周囲の人間の言動が原因で事件を起こしてしまった者もおり、絶対悪の存在として描かれていない。

 人間誰しも加害的な部分と被害的な部分の両方を持ち合わせて生きているのだと改めて気付かせてくれるヒューマンドラマな一面に魅力を感じた。

「加害」とは何かを考えさせられる

 ヒューマンドラマであると同時に、影のあるミステリアスな要素を併せ持つ。

 浅賀が加害者だけのシェアハウスを用意した理由は不明なままだ。彼らを小説のネタにするためなのか、はたまた他の思惑もあるのだろうか。

 また、加害者側である謎のヒロイン・仁科も、どんな人物なのかまだ明かされていない。美しい容姿を持つ彼女の中に一体何が秘められているのかが気になり目が離せなくなる。

ノラの家

 読み進めていくうちに「謎多き二人の秘密が暴かれるところを見たい」という欲求に駆られてしまう。それもまた一種の「加害性」なのではないかと、ふと考えさせられた。「加害」とは物理的で目に見える形だけではない自覚しにくい精神的なものもあることを本作は我々読者に伝えてくれる。

相反する立場の人々の行く先

 被害者と加害者は対極の位置にあるが「今まで当たり前にあった日常」を失ったという意味では同じなのだから、共同生活をしていくうちに双方親近感を抱き歩み寄っていくだろうが、それはやがて共依存へと繋がる懸念もある。

 寄る辺のない野良猫のような警戒心と孤独感漂う彼らは傷の舐め合いをしながら家に留まり続けるのか、傷を癒して家を出ていくのか。今後とも彼らの動向に注目したい。

🄫夕海/白泉社
文=ネゴト /

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