「おとうさんから生まれた子がいるんだよ」50年間変わらない普遍的な子どもたちの感性に笑えて泣ける! 自由で眩しい“こどもの詩”

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/1/10

ことばのしっぽ
ことばのしっぽ』(中央公論新社)

「読売新聞」の人気投稿欄「こどもの詩」の50周年を記念して刊行された詩集『ことばのしっぽ』(中央公論新社)が、多くの反響を得てロングセラーとなっている。

こどもにしか見えない世界。おとなになって忘れてしまった気持ち——だれもが持っていた“しっぽ”を探しにいきませんか?

 こんなふうに紹介されている本書。1967年から50年の間に発表された、中学3年生までの子どもたちによる選りすぐりの200篇が掲載されています。自分で文字を書いた子もいれば、子どもが話した言葉を家族が書きとめて送られたものもあるのだそう。詩の選者となった日本を代表する詩人たち、川崎洋さん、長田弘さん、平田俊子さんによるコメントも味わい深いものです。

おとうさん似 関口葵(群馬・5歳)

あたしのくみにね
おとうさんから
うまれたこが
いるんだよ!

(1989/11/08)

 この詩を書いた子は、自分が通う園で、お父さんにそっくりの子を見つけた様子。子どもはお母さんから生まれることを知っているけれど、「お父さんに似ている子はきっとお父さんから生まれたんだ」と思い込んでしまうところが純粋そのもの。“自分だけの発見をした”という驚きと喜びに満ちた表情が思い浮かびます。子どもはいつでも自分の想像の世界の中にいて、現実とファンタジーの間を行ったり来たりしていますよね。

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ちきゅうぎを見て 中神大介(群馬・6歳)

ママ
アメリカは
カナダのとなりだからさ
「カナダくん あそぼ」っていってさ
ニッポンは
中国のとなりだから
「中国くん あそぼ」っていったらいいのにね

(1984/10/24)

 この子は、お隣の国と仲良くする方法を教えてくれています。子どもたちは、知識がないからこそ自分が見聞きしたものをそのままに捉えていて、それが妙に核心をついていることがあります。それこそが、大人になって忘れてしまった純粋さ。じつはこういう心が社会を変えていくのかもしれません。

おとく 吉永塁(東京・6歳)

ママ いつでも
ぼくのこと
ギューって(だきしめて)
していいよ
ぼくはあったかいから
さむいひは
おとくだよ

(1995/02/25)

 200篇の中には家族にまつわる詩が多数あり、子どもにとって家族は社会そのものなのだなと感じます。選者のコメントにあるように、ママにギューっとしてもらいたいから“おとく感”を出して抱っこさせようとする、その賢さもひっくるめて愛おしい一篇。子どもの温かい感触を思い出し、今すぐに抱きしめたくなります。いつも大人は子どもにやられっぱなしです!

大事なもの 上原沙織(千葉・小4)

お母さん もし大地しんがきて
何か大事なものを持って
にげるとしたら
何を持って行く?
わたしは
おかあさんを持っていくよ

(1996/01/09)

 もう一篇、お母さんにまつわる詩。思わず自分のお母さんを思い出す人もいるのではないでしょうか。大地震の時に持ち出すもの…それは本当に大事なものに違いありません。この言葉を聞いた時のお母さんの胸中を想像すると、心の奥がジーンとします。

がれき 村田佳奈恵(神奈川・小2)

こう戸の大しんさいのニュースで
がれきという言ばを知った
がれきは「あっても何のやくにもたたないもののたとえ」
とじ書にのっていた
でも こう戸のはがれきじゃない
ぜったいちがう
こう戸の街にあるのは
一人一人の大切な
こわれてしまった
たからものなんだ

(1995/03/26)

 おそらく同年1月に起きた阪神・淡路大震災のニュースを見た子どもが、被災者の気持ちを想像して書いたと思われる一篇。「がれき」の意味を知って、この子の心はどれだけ揺さぶられたでしょうか。大人になるとあれもこれもわかっているような気になるけれど、子どものほうがたくさんの真実を掴んでいるのかもしれません。同時に、大人は子どもに怒られるようなことをたくさんしているな…と反省させられます。

大人は子どもに教えられることばかり

 人生の何分の一という限られた時期にしたためられた貴重な子ども時代の詩。そこには、新しいものを発見した時の喜びや、初めて感じる悲しみや寂しさなど、子どもたちの豊かな感性が溢れています。大人の気持ちで読めば「子どもはやっぱり可愛い」「子どもはみんな詩人だ」と感心するし、子どもと同じ目線になってみれば、子どもたちと一緒に想像の世界を旅しているようで新鮮な気持ちになりました。

 お父さんやお母さんにまつわる詩も多く、自分の家族の姿が重なります。ふと誰かの顔を思い浮かべ、顔を見たくなったり、電話したくなったりする人もいるのではないでしょうか。

 半世紀経っても時代に流されることなく、子どもの感性は子どものまま。いつも純粋で素直な子どもたちに、大人は教えられることばかりです。「詩」という言葉だけで表現された200篇。それを読んだ時に頭の中でどんな風景が広がるのか。たっぷりと楽しめる一冊です。

文=吉田あき

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