ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』(1巻)

今月のプラチナ本

公開日:2024/1/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年2月号からの転載になります。

『君と宇宙を歩くために』(1巻)

●あらすじ●

勉強もバイトも長続きしない高校生ヤンキー・小林のクラスに転校してきた宇野。彼はたくさんのことを同時に進めるのが不得手だったり、人から連続で話しかけられると硬直してしまったりと、“普通”が苦手な少年だった。ある日、小林は宇野が人と同じ生活を送るために、“ある工夫”をしていることを知る。そんな宇野の姿を見て、小林の生活にも少しずつ変化が生まれていくのだった。

どろのだ・いぬひこ● マンガ家。アフタヌーン四季賞2022年秋のコンテストにて「東京人魚(トーキョー・マーメイド)」が準入選してデビュー。

『君と宇宙を歩くために』(1巻)

泥ノ田犬彦
講談社アフタヌーンKC 946円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

對事不對人《その人ではなく、物事を見る》

貼られたラベル通り行動していれば、地球人でいられる。そこから逸脱した時に現れる無重力空間を、友と手を取り合って漂う。輝く星はどこまでも遠いが、隣で瞬く瞳にもその光はたしかに反射している。題に掲げたのは本書を読みながら思い浮かべた台湾の言葉だ。共存するためには物事を見る。その三角関係はどこまでも美しくじれったい。本をすすめるという行為にも、似たようなところがある。同じ宙を眺める宇野と小林のように、このマンガを共に楽しめる誰かがいたら幸せなことだ。

川戸崇央 本誌編集長。今年3月のコンビ解散を発表された和牛・川西賢志郎さんのコラムを是非ご一読頂きたいです。本誌74ページに掲載されています。

 

今はもう見えないかもしれない暗闇と光

まわりの人は普通にできることが自分にはまったくできない。恥ずかしくて、おそろしくて、足場がないまま歩いているようなあの頃の感覚を鮮やかに思い出した。どうして忘れられていたんだろう。あの心細さ。主人公ふたりの闘いの切実さに胸が詰まる。しかしまた、あの頃だけに起こった、奇跡のような瞬間があったことも思い出した。できることが増えた。友達が増えた。それだけであんなに不安だった世界が嘘みたいに輝き出す。その瞬間のふたりの顔を見て、なぜかまた胸が詰まる。

西條弓子 大人になって心細さが減ったような書き方をしたが、まったくそんなことはなく、質が変わっただけ。そんな仄暗い近況は今回のトロイカ学習帳にて。

 

お互いの存在があれば、宇宙も怖くない

当たり前のことができない。怖くて恥ずかしくて、宇宙を歩いているように不安だ。ドロップアウト気味のヤンキー・小林と変わり者の転校生・宇野。一見正反対だが〝当たり前のことができない〟2人が、勇気を出してできないことを認めて、諦めずに一歩踏み出す姿に胸が熱くなる。「小林くんのおかげで僕は宇宙を歩けます」、キラキラした目で語る宇野。これまで日常と一人で闘ってきた宇野と小林が、お互いの存在をテザーとしながらどんな宇宙を歩いていくのだろうか、ワクワクする。

久保田朝子 ようやく冬らしく寒くなってきました。喉の乾燥がひどく、喉がはりつきそうになって目覚める毎日。連日の悪夢を回避するため、模索中です。

 

2人の境界線が交わる時、世界が変わる

学校の授業についていけないヤンキー・小林のクラスに転校してきた宇野は、一目で分かる「ヤバいヤツ」だった。一見すると決して交わらない場所にいるように見える2人だが、実は小林も分からないことを質問できず、アルバイトを辞めてばかり。自分はできない人間なんだ、と実感するのは恥ずかしくて、つらい。それでも諦めずに挑戦する宇野と、工夫する方法があると知った小林。「できない自分」に向き合う2人が宇宙の歩き方を見つける日々を、もっともっと側で見ていたい。

細田真里衣 作中で、バイトが「いつも続かない」と悩む小林の姿に涙……。分からないことばかりの時の、宙に浮いているような気持ちの描写が胸に刺さりました。

 

友情という“テザー”をもって

ひとつの出会いが、世界を変えることがある。小林にとって、宇野との出会いがそれだ。仕事が覚えられず、どんなバイトも長続きしなかった小林。しかし、“普通”のことが苦手でも、工夫を凝らして生きる宇野との出会いを通して、彼は変わっていく。自らの気持ちと向き合いながら、一歩ずつ進もうと試みるその姿が眩しい。真っ直ぐには歩けない、無重力な「宇宙」を歩むうえで、彼らの友情もまたひとつの“テザー(命綱)”になるのだろう。少しずつ関係を深めていくふたりを見守りたい。

前田 萌 寒い日が続いている今日この頃。愛犬が恋しい。遊び始めるとなかなか終われないので、ヘトヘトになりますが……。私も愛犬も夜はぐっすりです。

 

宇宙を上手に歩くには

バカにされたくない。その気持ちから周囲の人たちを見て、自分の立ち位置を決める人は多いのではないだろうか。一方で、それ自体が苦手だと思う人もいる。本作の宇野くんはいわゆるクラスの変わり者だ。彼から見える日常は“一人で宇宙に浮いている”ようだという。「でも僕は宇宙を歩きたい!」。だから苦手と向き合い、工夫をしながら日々を生きる。自分を理解することが“宇宙を歩く”手助けになる。同じクラスの小林くんのように彼に感化される読者がきっといるに違いない。

笹渕りり子 フライドポテトが好きすぎて、食べたポテトを写真で記録するインスタアカウントを作りました。4カ月ほど前から始めて40投稿超え。食べすぎ?

 

“君と”宇宙を歩くために

周りの人が普通に出来ていることを出来ないと認めるのは恥ずかしいし、怖い。でも、“誰かと”だったらそれに立ち向かえるかもしれない。「でも宇野だってそれ乗り越えて来てんだろ」ヤンキー高校生の小林が自分を鼓舞する言葉にハッとする。一人では難しくても、“あの人も頑張ってる”と思うと踏ん張れることって本当にたくさんある。そして小林と関わる中で起こる宇野の変化にも胸が熱くなる。一見交わらないように見える二人の関わり合いの中に、誰かと生きることの意味を見る。

三条 凪 猫特集を担当。読者の皆さまの猫写真も「#猫に狂う」で募集しています。ぜひぜひ猫エピソードもつけてご投稿ください! 特集は124Pから!

 

それぞれの宇宙で息をする

読みながら涙が止まらない。周りの当たり前は私の当たり前ではなく、自分の不器用さに涙した過去を思い出す。当時の私はそんな日々に絶望していたが、本書を読んで、大事なのは“乗り越える”ことではなく“工夫”なのだと知る。私たちはどうあがいても宇宙で息をすることはできない。だが、できないことを認める勇気や、周りにいる友人がその苦しい一呼吸を支えてくれる。誰しもに違った“宇宙”があり、それぞれが必死にもがく世界で、この本もきっと誰かのテザーになるのだろう。

重松実歩 お酒が入ると涙ながらに友人にいろんなことを感謝しがちです。今年はお酒を飲んでいない昼間から、積極的に周囲に感謝の気持ちを伝えていきたい。

 

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