90代の不調も笑い飛ばす! 老いの日々をご機嫌に過ごすヒントが満載の樋口恵子氏最新刊『老いの上機嫌』

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/1/22

老いの上機嫌 ―90代! 笑う門には福来る
老いの上機嫌 ―90代! 笑う門には福来る』(樋口恵子/中央公論新社)

 超高齢化時代といわれる中、書店の店頭にも時代を反映した本が増えてきた。健康系や終活系などノウハウ本、生き方指南のエッセイなどもさまざま出版されている。中には著者がオーバー90という人生の大先輩たちの本もあり、「人生100年時代が到来しているのだ!」とリアルに実感させられる。評論家の樋口恵子さん(91)もそんな大先輩のおひとり。90代となった現在でも、「高齢社会をよくする女性の会(WABAS)」理事長として現役バリバリでお仕事をされている元祖ワーキングウーマンであり、このほど『老いの上機嫌 ―90代! 笑う門には福来る』(中央公論新社)を上梓された。

 樋口さんといえば、2003年に石原慎太郎氏に対抗して東京都知事選挙に出馬されたのを覚えている方もいるかもしれない。実は2000年の「介護保険制度」の設立にもWABAS理事長として旗振り役をされていたり、メディアを通じて鋭く社会を批評したり、その姿はまるで「女性たちの人生」応援団長!

 本書は『婦人公論』に連載中のエッセイ「老いの実況中継」に大幅加筆し(最新回2023年12月も収録されている)、さらに多くの書き下ろしをプラスして編まれたとのことで、樋口さんの幼少期からのこれまでの歩みに加え、「90歳の暮らし」という「今」のリアルがユーモラスに綴られている。

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 1932年生まれの樋口さんは戦中世代。戦後で民主化されたといっても、「女に学歴など不要」「いいところにお嫁に行くのが女の子のいちばんの幸せ」というのが当たり前の世の中で、樋口少女は女子高の新聞部部長として男子高を取材に行くなど積極的で元気いっぱい。1952年には東大に進学して、本当の意味での「男女共学」を味わったという(ちなみに東大が女子に門戸を開いたのは樋口さんが入学する6年前だ)。とはいえ女子の立場は今よりずっとアウェーで、樋口さんも日々極めてナチュラルに「女性蔑視」を受けまくる。それでもめげずに自然体で明るく、とにかく前向きに突き進む樋口さん。軽妙な語り口につられて、そうした歩みを楽しく読み進めてしまうが、どっこい、その実相は本当に悔しさの連続だったに違いない。こうした先人たちの苦労のおかげで、まがりなりにも今の「男女平等」の社会が生まれているのだと思うと、ありがたい気持ちにもなってくる。

 お元気そうに見える樋口さんだが、それでも耳が遠くなったり、少し気が短くなったり、足腰が弱ったり… といろいろな不調も(超高齢で乳がんにもなったそうだ)。とはいえ身体にそうした不具合が出るのも当然の話で、大事なのはそうした現実を悲観せずにいかに明るく生きるかどうか。その意味で、周囲のサポートを上手に受けながら、自分らしい充実した日々を送る樋口さんはよきお手本でもある。日頃から講演でも「機嫌よく生きなければもったいない!」と伝えているという樋口さんは、本書でも90代の不調を明るい笑い話にして、さらに「ご機嫌暮らしのヒント」を伝授してくれるのだ。

 それにしても90歳にもなると、一体どんな暮らしになるのだろう――そんな素朴な疑問を持つ方は多いのではないだろうか。なかなか樋口さんのようなしっかりした当事者の声には触れられないので、そうした老いの現実をリアルに伝えるという意味でも、本書は貴重な記録といえる。本書には小学校の同級生という作家の黒井千次さん(同じく91歳)との対談も収録されており、「70代なんて未熟高齢者。来年もまた対談しましょう」なんて笑い合うおふたりの姿も実にたのもしい。「老い」に気分が鬱々としそうな方には、前向きな刺激になるのは間違いない。

文=荒井理恵

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