投資には「反抗期の子どもを育てるように」向き合う? 投資本の世界的ベストセラーから学ぶ、「地道」の心得

ビジネス

公開日:2024/1/24

敗者のゲーム
敗者のゲーム』(チャールズ・エリス/日本経済新聞社)

 1985年に初版が刊行して以来、投資分野の書籍におけるロングセラーとなって全世界で100万部が出版された『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス/日本経済新聞社)。「敗者」という言葉が意味するのは、「どん底からどうやって這い上がるか」というようなことではありません。技術の発展や人材の集中によって、勝ち敗けで言うならば敗けになる可能性が常に高い状態で、投資をおこなわなければいけないという状況のことを意味します。

 本書は「こういう時にはこうすればいい」とか「こういうところに投資をすればいい」とか「値上がり株を見つけるコツ」といったようなことはほとんど書かれていません。どちらかというと、資産運用をする者としての心がけや精神論に関する議論が中心となっています。

 投資家の間ではよく、資産運用というのは芸術なのか科学なのかということが議論になるといいます。天才的な投資家が持つ微細な感覚・直感、複雑な状況の見極め力を誰もが解き明かしたいと思っているからです。

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 著者は、俯瞰した目線で金融商品を組み合わせて、最適な資産の分配を考える資産構成(ポートフォリオマネジメント)をするためには、「地道さ」が必要だと説いています。

大部分の運用機関にとって、ポートフォリオマネジメントは、芸術でもなければ科学でもない。決められた運用方針の制約の中で、特定の目標に到達するための最も信頼できる方法を決定するという「エンジニアリング」、すなわち地道な作業だ。その際に最も大切なことは、問題の本質を正確に定義すること。問題の本質が正確にわかれば、正しい解決方法を見出す道筋が見えてくる。

 まず、何を実現したいかを明確にすること。そこから、目標実現のためにはどのようなステップが必要なのかを割り出すこと。そのような思考回路が習慣付いていると、市場が暴落したときにも冷静さを保っていられるといいます。

 また、人がする選択というのは案外非論理的であるということを覚えておく必要があるとも著者は説いています。冷静な判断を阻害する非論理的選択の要因とは、例えば下記のような事柄です。

  • ・自分の最初の判断に固執しすぎる
  • ・都合の悪いことを軽視して、都合のいいことしか見ない
  • ・印象的な出来事や大きなニュースを過大評価する

 動じないことと併せて、ある時には攻め、ある時には守るということが投資には必要になります。しかし、そのような神業的振る舞いは、一体どのようにして実現するのでしょうか。本書では多くのたとえ話が用いられていますが、「反抗期の子どもを育てるように」と、その心得が書かれています。揺さぶりに惑わされず、自分の目標と限界を把握し、親心さながらの地道な優しさをもって資産を扱って投資をしていくということです。

問題は、運用機関の能力が足りないとか、努力が足りないといったことではない。むしろ逆だ。「市場に勝つ」ことが難しくなったのは、プロのファンド・マネージャーがきわめて優秀で真面目で、そして技術革新により直ちに重要な情報を得られるようになったからである。こうしたきわめて競争の激しい業界だからこそ、長期にわたって個人投資家がプロに勝つことは、ほとんど不可能になってきている。

 数値や数式を一切使わずに投資の本質を記した本書は、投資に興味を持ちはじめた方から、熟達された方までオススメの一冊です。

文=神保慶政

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