これぞ文化系の青春部活マンガ! アイドル×女装×オタク×ギャルのカオスな日常を描く『ずっと青春ぽいですよ』

マンガ

公開日:2024/1/17

ずっと青春ぽいですよ
ずっと青春ぽいですよ』(矢寺圭太/講談社)

 部活に打ち込み、試合などで勝利を目指す、そのなかでできる友達や恋人との日々……。これは現役高校生の理想かもしれない。昔、高校生だった私たちからしてもキラキラと輝き、眩しいがすぎる。ただここで書いた部活は、野球やサッカーや陸上などの運動部、あるいは大会や発表会のある文化部というイメージだろう。

 では、目標がある部活に入らなければ輝く青春が送れないのだろうか。答えは「そんなことはない」である。

 本稿で紹介するのは『ずっと青春ぽいですよ』(矢寺圭太/講談社)。ともすると陰キャなどと言われていた高校生たちが、毎日ほぼ部室で過ごすだけの「The文化部」な雰囲気を描いた物語である。この作品が前述の回答の根拠になるのだ。

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ギャルと男子高校生をアイドルにプロデュース?

 とある県立高校でアイドル研究部の部長を務める山田。彼はすでに3年生だったが、高校生活最後の一年、何かが変わる予感がしていた。なぜなら、ずっとひとりぼっちだったこの部に、杉森(おとなしい男子)と河野(かなり助平)という新入部員が入ってきたからだ。

 気持ちが前向きなのだろうか、ノリノリの山田は彼らふたりと活動を開始する。「野球部が甲子園を目指すみたいに、あんなふうにキラッキラのステージみたいな青春してえ」という彼は、念願だった「アイドルプロデュースとライブ開催」という野望のため、校内のギャル、ニコとクロエに声を掛けた。彼女たちには提案を一蹴されたものの、山田は顔がかわいい杉森に女装させることを思いつく。この予想外に完成度の高い女装によって、山田と河野はもちろん、嫌がる杉森本人のなかでも何かが変わり始める……!

 さらに、謎の美少女の噂を知ったクロエとニコがアイドル研を訪れ、部室に入り浸るようになる。クロエは得意なメイクの腕を生かして杉森の女装をさらにレベルアップさせた。ニコは、高校3年生ではあるがクロエのように予備校にも行かず、将来の展望もなく悩んでいた。

 そんな彼女はアイドル研の勢いに巻き込まれていく。「今年はアイドル研に全力、浪人して早稲田に入る」と、学力的な根拠はないが真っすぐな目で語る山田に、思わず感心してしまうのだ。オタクに厳しかったギャル、ニコの変化も本作の魅力のひとつである。

 山田とその仲間たちは、彼の言う「キラッキラの青春」を謳歌し、アイドルのプロデュースとライブという目標を達成することができるのか。ただ事態は山田の想定を超え、思いもよらぬ展開に……。

キラキラ輝いて眩しすぎる“青春ぽい”こと

 本作は高校生の日常ギャグものであり、学園青春ものでもある。火がついてしまった山田の情熱は笑えるしアツい。2年間ひとりで部室にいた彼に、高校卒業とその先が見えてくる3年生になってようやく、運動部のような青春を楽しむチャンスがめぐってきたのだから盛り上がるのは当たり前だ。ただ、物語のしょっぱなに杉森は言う。

いつもみたいに放課後
部室でくだらないお喋りしたりする
僕にとってはアイドルソングの歌詞にありそうな青春より
ずっと青春ぽいですよ

 山田には流されてしまうこのセリフは、タイトル回収というよりは物語のテーマを示している。彼はアイドルをプロデュースして、ライブを行うことが“青春のようなもの”だと思っている。しかし、実は山田に仲間ができた時点で“青春ぽい”ことが始まっているのだ。それは読者の私たちからすれば、じゅうぶんキラキラしている。文化部は、地味でも何気ない毎日が輝いているのだ。

 いきなり自分語りして恐縮だが、高校も大学も文化系の部活とサークルに入っていた私は、面白かった記憶しかないし、あれは青春といえば青春だった。文化部出身で本作を読んだ人はきっと、私と同じように懐かしく感じるだろう。そうでなかった人は「文化部はこういうものなのだ」と思ってくれていい。

 山田(とニコとクロエ)が卒業するまでの間に、どんなふうに楽しそうで、眩しくて、羨ましくなる“青春ぽい”ことが起こるのか。乞うご期待、なのだ。

文=古林恭

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