人類滅亡後に繫栄する肉食動物はネコではなくネズミ? 5000万年後の未来を描く空想図鑑『アフターマン』の児童書版

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/2

アフターマン 人類滅亡後の動物の図鑑 児童書版
アフターマン 人類滅亡後の動物の図鑑 児童書版』(ドゥーガル・ディクソン/学研プラス)

 地球沸騰化時代と言われ、各地で記録的な暑さだったのが記憶に新しい2023年。ここ数年は世界各地で異常気象や災害が発生しているし、日本は今後四季がなくなり、夏と冬だけになるのでは? と言われているほど、環境の変化が激しい。

 これから先、私たち人類は地球でどこまで生き延びることができるだろうか。もしも人類が滅亡したら、未来の地球を闊歩するのはどんな動物たちだろう。『アフターマン 人類滅亡後の動物の図鑑 児童書版』(ドゥーガル・ディクソン/学研プラス)は、そんな想像を大真面目にかたちにした、5000万年後の未来を描く空想図鑑だ。

 本書の著者は、スコットランドのサイエンスライターであり、イラストレーターでもあるドゥーガル・ディクソン氏。歴史的名著として名高い空想図鑑を、小学生でも読みやすいように児童書版として再構成したのが本書である。

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 本書では、「生態系の頂点」と自称して地球に君臨していた人類は5000万年後には滅亡し、数千年かけて築いた文明も消失している。人類によって壊された生態系や自然は、人類が滅亡したことで回復したと仮定されており、プレートの運動によって大陸の配置が変わり、気候帯や植物の分布も変化している。

 空想上の生物にはすべて固有名詞が付いていて、今日存在している生き物がどのような進化を辿ってその姿へと変貌を遂げたのかが細かく描かれている。例えば、5000万年後の肉食の哺乳類は以下のように紹介されている。

“ネコ目がかつて占めていた生態的位置は、今では地域ごとに様々なグループの哺乳類にとって代わられている。温帯域でかつてのネコ目の生態的位置を占めているのが、肉食に進化したネズミの仲間――プレデター・ラットである。人類時代、ネズミ類は世界中に広がった人類について回り、人類の絶滅後も文明の廃墟で繁栄を続けた。そしてその高い適応力で、衰退したネコ目にとって代わったのである。” ―P20

 緻密な根拠と考証によって生まれた空想の動物たち。プレデター・ラットは完全に著者の空想の産物だが、確かにネズミは人類とともに生息地域を広げて繁栄しそうだ。生息地域はどこで、何を食料にしていて、どういう習性があるのか、どんな姿をしているのか。想像ではあるが科学的根拠に基づいているので説得力があり、児童書でありながら大人まで楽しめるのが本書の最大の魅力だ。

 もちろん、私たちは人類亡き後の世界を見届けることはできないし、本書が正しいかどうかを確かめる術は現代には無い。ただ、現代の人類がやってきたことが、自然や生態系にどれほどの影響を与えるかは、本書を読めば伝わってくる。一度失った種が復活することはないし、植生や環境ももとには戻らないという現実を、未来生物の生態系を通して伝えてくる。

“一つ確かなことは、この地球で35億年にわたって生命を存続させ続け、環境のいかなる変化にも適応させてきた「進化の法則」は、今後も機能し続けるということである。”
―序文より

 本書によると、地球は今後50億年程度は存在し続けるそうだ。人類がいなくても地球は存在するし、どんな進化を遂げたにせよ生き物たちは命をつないでいくだろう。地球の歴史からみれば、私たち人類が地球に存在する時間はほんの少し。これほど壮大なスケールで時間を意識することがなかなか無いからこそ、「地球の未来」という大きな主語で物事を考えるきっかけにもなりそうだ。

「もしも」の世界がまとめられた『アフターマン』だが、一般的な動物図鑑に触れたことが無い子どもに『アフターマン』を与えることだけは気を付けなければいけない。5000万年後の動物がその子の常識になってしまったら大変だ。

 動物図鑑はもう見飽きてしまった。もっと刺激が欲しい…そういう方はぜひ、空想だけれどリアルな未来に思いを馳せて楽しんでみてほしい。

文=鈴木麻理奈

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