全米で1500万部突破の著者が送る科学ファンタジー最新作。「月の落下」を予知した盲目の少女の運命はいかに?

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/7

星なき王冠 上・下
星なき王冠 上・下』(ジェームズ・ロリンズ:著、桑田健:訳/竹書房)

 世界が終わりを告げる頃、日陰で生きてきた者たちの人生が動き出す。他人から疎まれ、蔑まれてきた彼らに、世界を救うことなどできるのか——。『星なき王冠 上・下』(ジェームズ・ロリンズ:著、桑田健:訳/竹書房)は、自分に自信を持てずにいた者たちの危険な旅路を描く、科学ファンタジー・シリーズ。著者は、全米で1500万部を売り上げたミステリー・アドベンチャー〈シグマフォース〉シリーズで知られるジェームズ・ロリンズ氏。世界を席巻するファンタジー作家が、構想に10年、執筆に数年かけたという壮大な物語が、遂に日本にも上陸した。

 物語の舞台は、〈アース〉と呼ばれる惑星。自転が止まったその星は、太陽を向いている側は、その光を浴び続けて灼熱である一方で、もう片側は暗闇に閉ざされ、氷で覆われている。そんな惑星で、生命を維持できるのは、二分された世界の境界線、惑星を帯状に取り巻く「クラウン(王冠)」と呼ばれる細長い地域だけ。その地域で暮らす、盲目の少女・ニックスがこの物語の主人公だ。

 ある時、ニックスは、彼女を虐げる同級生から逃げる最中、猛毒を持つミーアコウモリの襲撃に巻き込まれたが、奇跡的に一命を取り留めた上、視力まで回復した。しかし、彼女はそれからというもの、「ムーンフォール(月の落下)」によるアースの破滅という悪夢に悩まされるようになる。そんなニックスの予言をめぐって、隣国と戦争を控えた王国では、国王や側近の思惑が交錯しはじめる。国王はニックスを宮殿に連れてくることを望むのだが、彼女は修道院学校に迫る危機を予知する。ニックスは学校と町を脅威から救おうと試みるのだが……。

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 どうしてニックスの視力は回復し、予知の能力を手にしたのだろうか。序盤は、運命に翻弄されるニックスの動揺がページをめくるごとに伝わってくるかのようで、彼女のことを放っておけないような気持ちにさせられる。と同時に「これから何が始まるのか」という高揚感を感じずにはいられない。実は、「ムーンフォール」の危機に気づいたのは、彼女だけではない。ある錬金術師もそれに気づき、彼は、次期国王の双子の弟で、兄に万が一のことがあった時のための予備としての役割しか与えられていなかったカンセにその事実を伝えた。だが、戦争の足音が忍び寄りつつある世界で、誰も破滅の前兆の話など聞きたいはずはない。国王が「ムーンフォール」の予言を簡単に受け入れるはずがないし、ニックスの存在を恐れる闇の一派も存在するらしい。やがて、何かに導かれるように、ニックスとカンセは出会い、行動をともにするようになる。ふたりは自分に自信などあるはずがない。どちらも隠れるように生きてきた者たちだ。そんな彼らは自らの危機をどうやって乗り越え、世界を救うのか。彼らの旅からどんどん目が離せなくなってしまう。

 なんて魅力的な世界なのだろうか。遺伝学、生物学に根付いた記述もなされているせいか、読めば読むほど、何だか全てありえなくないように思われてしまう。本当にどこかに〈アース〉のような惑星があるのではないか。もしかして、私たちの住む「地球」と関係があるのでは。そんな疑問を覚えつつ、ページをめくる手は次第に加速していく。そして、何よりも、この世界に住むたくさんの生き物たちが、私たちを虜にする。貨車を引っ張るササバクガニがいたり、沼地の化け物として恐れられているはずのミーアコウモリや、北欧神話に出てくるオオカミのようなワーグが人間たちと心を通わせたり。かと思えば、クモとハチが一つになったかのような危険な虫や、ぬるぬるした皮膚の黒いカエルのような、ピラニアのような肉食生物が、ニックスたちの行く手を阻む。そんな想像上の生き物たちは、獣医の資格を持つ作者ならでは。彼らの存在が、ニックスたちの冒険をさらに手に汗握るものとしている。

 不思議で過酷な荒涼とした世界と、奇妙な生き物、そこでどうにか生きようとする人間たち。ある者は戸惑い、ある者は苦しみ、ある者は諦め、ある者は罪悪感に苛まれている。そんな一人一人の揺らぎが、私たちの心と呼応していく。一体、この先、ニックスの旅に何が待ち受けているのか。戸惑いを抱えながらも、それでも次第に力強く歩を進めていく彼らの旅に、是非ともあなたも同行してみてほしい。この危険な旅はきっとあなたのことも、魅了してやまないだろう。

文=アサトーミナミ

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