『NEEDY GIRL OVERDOSE』のにゃるら氏が描く「インターネットへの愛と絶望」。ゲームを知らなくても抜群に楽しめる新作小説『蜘蛛』

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/19

蜘蛛
蜘蛛』(にゃるら/講談社)

 何者かになりたい。だが、何者かになった者の発信には辟易している。そんな感性を持っているなら、瞬く間に『蜘蛛』の魅力に絡め取られてしまうだろう。

『蜘蛛』は、インディーゲーム界隈で絶大な人気を誇る『NEEDY GIRL OVERDOSE』(略称:ニディガ)の企画・シナリオや、SNS世代の女子たちの心の闇を取り扱った書籍『承認欲求女子図鑑 ~SNSで出会ったヤバい女子たち~』を手掛けたにゃるら氏による新作小説。インターネットの世界に造詣が深いにゃるら氏が描く、暗く妬ましいカオスの中に美しさを見出す青春物語である。

『NEEDY GIRL OVERDOSE』の主人公「超てんちゃん」(正式名称:超絶最かわてんしちゃん。作品内の超有名インフルエンサー)が作中に登場するため、ファンのための作品と思われてしまうかもしれない。だが、本作はファン向けの作品とは一線を画している。

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 読み進めるほどに、令和という時代をここまで鮮明に描けるのか、ここまで多彩かつ現代的な言葉を紡げるのか、と感心していく。刺さる表現が豪雨のように心を貫き続ける200ページちょっと。シンプルに小説としてのおもしろさが爆発している作品だと思う。

世間的に見れば、週五で出勤して納税している者のほうがダントツでえらい。

はっきり言うよ、配信者の若い女を追っているヤツなんて、ファンもアンチも病気にきまってんだろ!

あまりに弱すぎて、なんにでも怯えて、だからネットにしか居場所がなくて、いや、ネットにも“自分”がなくて、それでもインターネットにしがみつくしかないから、そこで目立っている悪者を攻撃することでしか他人と馴染めない。

 現代のインターネットと、そこに関わる人々を象徴するような独特な表現の数々。選ばれる言葉と、その繋げ方に見られる新鮮さがたまらない。伝わってくるのは、にゃるら氏が抱くインターネットへの膨大な愛と絶望だ。まるで蜘蛛の糸に絡まっていくかのように、読めば読むほどハマって抜け出せなくなっていく。にゃるら氏の言葉がもっと欲しい、刺さる表現をもっと浴びたい。まるで劇薬。ほかの小説を読んでも刺激が足りなくなってしまうかもしれないと思いながらも、読み進めることをやめられない魅力がある。

どうすればいい? わたし、頑張ってきてない? 頑張ってないか。頑張ってないんだよなぁ。

 インターネットにより他者との比較が容易になったことで、誰しもが抱えることになった葛藤。令和という時代を象徴しているとさえ感じた一文だ。『蜘蛛』を読むと、こんな感情との向き合い方も教えてくれる。覚悟さえあれば、誰でも超てんちゃんのような何者かになれる。覚悟さえあれば。

 本作は間違いなく、インターネットにすがることでしか生きられない人の青春物語である。日々、自身の主張をSNSで発信している人も、それを俯瞰して冷笑している人も同類だ。僕たちは、救いも絶望もごちゃまぜになった世界の中で、カオスな青春しか送れないのだ。

文=河村六四

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