リアルに描かれた、令和を生きるZ世代の焦燥感や人生観。あなたは彼らのどんな未来を想像するだろうか?

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/21

令和元年の人生ゲーム
令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場/文藝春秋)

ツイッターにツリー形式で投稿した小説が話題となり、2022年にショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)を出版した麻布競馬場氏が、昨年から『別冊文藝春秋』に連載していた小説『令和元年の人生ゲーム』が一冊にまとめられた。本作は「平成28年」から始まり「平成31年」「令和4年」を経て、第4話「令和5年」と4つの時代と物語がつながる連作短編集だ。

西暦では2016年である第1話「平成28年」は、麻布競馬場氏の母校である慶應義塾大学が舞台だ。主人公は大学生によるビジネスコンテストを運営するサークル「イグナイト」に所属することになった徳島県出身の新1年生。彼は「大学時代は将来にとって意味のある、価値のあることをしなければならない」と現実的かつ正しく物事を考えているが、当初の思いや憧れがだんだんとズレていくことに戸惑い、うっすらとした焦りを感じるようになる。続く「平成31年」は人材系企業の女性新入社員、「令和4年」は鉄道会社の男性サラリーマン、「令和5年」はPR会社の男性サラリーマンが主人公となり、彼らの焦燥感にピントが当てられる。また本作をつなぐのはイグナイトに属している2年生の沼田という男だ。斜に構え、人生をわかったような口ぶりで嘯く彼の人生が流転していくことが物事の横糸になっている。

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小説に登場する人物の多くは1990年代半ば以降生まれ、幼い頃からスマートフォンが身近にあり(初代iPhoneは2007年発売)、SNSが普及した時代を生きてきたデジタルネイティブ、いわゆるZ世代に属している。彼らはまるで足の付かない深いプールで必死に息継ぎするように“正しい人生”を求め、周囲と繰り広げるデッドヒートから外れないよう、人生のハンドルを握り締め、アクセルを踏み込んでいく。

しかし自分が理想とする「ありたい自分」と「自分の有り様」は、ほとんどの人生でイコールではない。それは大人になればなるほど簡単に引き裂かれていく。そこでどう折り合いをつけるのか、見つかった自分の有り様にどう軸足を置くのかが人生における岐路となる。しかし本書で描かれているのはほぼその年の出来事のみ(若干のバックストーリーはある)で、登場人物たちのこの先の人生がどうなるのかは書かれていないため、それが幸せなのか不幸なのかは想像する他ない。

元号である“令和”には「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」という意味が込められているという。読者は現代を描く物語から、どのような力を得て、誰と手を携え、どんな文化や未来を創造していくのだろう。

文=成田全(ナリタタモツ)

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