累計25万部突破の人気シリーズ。最新刊のテーマは「四年後の冬、君は死ぬ。」――温かさとミステリーが共存する、待望の第4弾が刊行

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/23

この冬、いなくなる君へ 長い嘘が終わる日に
この冬、いなくなる君へ 長い嘘が終わる日に』(ポプラ社)

「四年後の冬、君は死ぬ」

 出会ったばかりの人から突然そう告げられたら、あなたはどうするだろう。

 怒るか、宗教の勧誘だと思うか、あるいはただの変な人だと感じるか。いずれにせよそんな言葉、絶対に真に受けてはならない。しかし陽葵はなぜかその男性、篤生の予言(?)が頭から離れなくなる。さらに毎年冬がくるたびに篤生と遭遇するのだが――。

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 お仕事小説から青春、恋愛、人間ドラマと、さまざまな切り口で生と死をやさしく見つめる作品を発表し、大人気のいぬじゅん氏。とりわけ多くの支持を集めている冬の季節を背景にした「冬」シリーズの最新、第4弾『この冬、いなくなる君へ 長い嘘が終わる日に』(ポプラ社)が発売された。

 地元、熱海での就職内定を断り、東京の動画制作会社で働くことを選んだ22歳の陽葵。実家を出て念願のひとり暮らしをはじめようとした矢先に事故に遭いかけ、その場に居合わせた男性に助けられる。「ありがとう」と感謝の言葉を言うより先に彼から投げかけられた言葉は、

「四年後の冬、君は死ぬ」

 その男、篤生の予言が妙に引っかかりながらも、陽葵は社会人としての日々を懸命に生きてゆく。その日常がやわらかな筆致で丁寧に描かれる。

 仕事を少しずつ覚え、家族と友人以外の人間との接し方を学び、恋人もできる。そして冬になると決まって篤生と出くわし、少しずつ彼のことを知るようになる。

 触れた人の死の瞬間が見えてしまう篤生は、これまで色々な人に死を“予言”し、なんとか運命を回避してもらうよう促してきた。しかし、それができたのは、たった一人だけ。多くの人は彼の言うことに耳を塞いだり、運命に抗おうとしたりするものの、押し潰されていった。

 そうしたことを繰り返すうち篤生もまた、ゆっくりと絶望を深めていく。自分は無力であり、誰も助けることはできない……と。

 篤生の胸のうちを知るにつれ、陽葵のなかに彼を信じる気持ちが芽生えてくる。

「君に関わる人たちが無意識に、時には意識的に君の心を殺していく」

 篤生はそう告げる。運命を変えるには、その人たちと心から向き合う必要がある、と。

 ここから物語はミステリー小説の面を見せてくる。やさしい恋人の冴木、憧れの従姉妹であり上司でもある夏帆、子離れできないけれど愛すべき母親・風子。彼らのうち誰が私の心を殺そうとしているのだろう……もしかして全員……?

 人と心から向き合うのは難しい。それが近しい人であればなおのこと。些細な疑念やわだかまりがあっても、深掘りせずにしておく方が無難だし、心が疲れない。だけど、それではいつか心が死んでしまうと陽葵は気づく。そして彼らひとりひとりに対峙しようと決意する。

 実はこの篤生、本シリーズの第1作『この冬、いなくなる君へ』の主要人物である。第1作を読んだ方なら、そこかしこで彼が言及している“ただ一人、運命を変えることができた人”が誰なのか分かるだろう(もちろん未読であっても問題ない)。

 対決することをおそれずに人と向き合う。その結果、心が傷ついて血を流しても、それはきっと必要な痛み。痛みを知ることで人はより強く、深くなるのだから――。

 そんなメッセージが込められているかのようなラストは、季節が冬であるだけに、ぬくもりが沁みてくる。

文=皆川ちか

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