吉本興業の絵本作家・ひろたあきらオススメの“大人に読んでほしい絵本”。『ゴムあたまポンたろう』『ねこのセーター』など固まった頭をほにゃほにゃにしてくれる3冊 

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/3

 初めまして。絵本作家のひろたあきらです。私は今、いろいろありまして、吉本興業で絵本作家として活動をしています。吉本で絵本作家として活動をしているのは、おそらく私だけだと思います。なかなか珍しい生き物です。絵本を作る仕事をしていますが、そもそも絵本が大好きで、狭い部屋に500冊ほど絵本があります。絵本作家としても、ただの絵本好きとしても、もっと多くの人に絵本を読んでほしいと思っています。

 絵本は子どもが読むものというイメージがありますが、そんな事はありません。大人が読んでも普通に面白いです。普段絵本を読まない方も、これをきっかけに絵本を読んでみるのはいかがでしょうか?絵本作家として、ただの絵本好きとして、絵本の魅力をお伝えできればと思います。

 いきなりですが、残念なおしらせです。お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、大人になるとどんどん頭が固くなってしまいます。それは仕方がないことなのかもしれません。だって大人なのですから。悩みも抱えているし、なるべく恥もかきたくないし、少しでも周りからいいように見られたい。考える事がいっぱいです。そして、どんどん自分の考え方も決まってきて、頭が固くなってしまうのも分かります。でも、もう少しだけ頭を柔らかくして生きられないものでしょうか?

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 これを読んでいる大人のあなたが、少しでも頭を柔らかく、自由に、心のままに生きられるように、3冊の絵本のお話をします。私もなるべく頭を柔らかくしてお伝えするべく、ベッドでゴロゴロしながら執筆させていただきます。

『ゴムあたまポンたろう』

ゴムあたまポンたろう
ゴムあたまポンたろう』(長新太/童心社)

 全ての始まりは一冊の絵本との出会いでした。それが『ゴムあたまポンたろう』です。ポンたろうとの出会いは、確か26歳の時でした。本屋さんで初めて立ち読みした時、人生が変わるほどの衝撃を受けてしまったのです。

 謎めいたタイトルに惹かれ、棚から絵本を手に取ると、表紙に現れた宙に浮く丸顔の白い人物。そして奇抜な配色。この絵本は明らかに様子がおかしいと思い、表紙をめくるとこう書いてありました。”とおくの ほうから おとこのこが とんできました。 あたまが ゴムで できている 「ゴムあたまポンたろう」です。”それを見た私はこう思いました。いや、誰?ポンたろうについて説明されている様で、謎が深まった様にも感じました。そこから先はポンたろうが、ゴムでできた頭を様々な場所へぶつけながら旅をするというお話で、ポンたろうについての説明は全くありません。しかも、頭をぶつける場所や、話の展開も、ずっと浮世離れしていて、ポンたろうが何者なのか分からないまま読み終えてしまいました。

 それまで絵本をほとんど読んだことのなかった私とって、かなり衝撃的な内容で、一気に絵本の世界に引きずり込まれてしまったのです。それからというもの、何度も何度もこの絵本を読んでいますが、いまだにポンたろうが何者かは分かりません。でも、ポンたろうが何者かなんてどうでもいいことです。それに、ポンたろうはいつも大切なことを教えてくれます。もっと自由に生きろよと。どこへ行くかなんかは、頭がぶつかって飛んで行った方に行けばいいじゃないかと。ポンたろうが優しく教えてくれるのです。

 そしてポンたろうは絵本の面白さも、私に教えてくれた人物です。ポンたろうと出会わなければ、今の私はありません。ポンたろうは私にとって人生の師であり、恩人です。ポンたろう先生のように、自由な暮らしがしたいなと、いつも心がけています。

『ねこのセーター』

ねこのセーター
ねこのセーター』(及川賢治、竹内繭子/文渓堂)

「自由な暮らしをしている」でお馴染みといえば、やはり、所ジョージさんですよね。男の憧れです。そして、所ジョージさんに負けないぐらい、自由な暮らしをしているのが猫です。スピッツが『猫になりたい』と歌うほど、猫になりたい大人は多いはずです。そんな猫の中でも、目を見張るほど自由に生きる猫がいます。それが『ねこのセーター』に登場する猫。表紙をめくるとこう書いてあります。”これは さむがりで なまけものの ねこです”のっけからすごい言われようです。しかしページをめくるにつれ、そう言われても仕方がないぐらいに怠け者の猫なのです。猫は寒がりなくせに、ぶかぶかでぼろぼろのセーターを着ています。そういう人っていますよね。私の友達は何年も着すぎて、ティッシュぐらい生地の薄くなったTシャツを毎年着ています。

 猫の話に戻します。この猫の仕事は、自宅でどんぐりに帽子を被せる仕事です。なんですか、その面白そうな仕事は。しかし猫は怠け者なので、3つばかり帽子を被せるとめんどくさくなってきて、さぼってしまうのです。私たちの発想にはない、想像を絶するほどの怠け者っぷりです。この後も、この猫らしい自由気ままな生活が続きます。驚くほど怠け者だなと思いつつ、羨ましくも思ってしまいます。正月ぐらいだらだらしてもいいか。という過ごし方を日常的に行っているのがこの猫です。

 大人になると、何か理由がなければさぼることに罪悪感が生まれてしまい、なかなかさぼれないですよね。でも、大丈夫。この猫を見ていると、たまには思いっきり怠けてもいいじゃないかと思わせてくれます。この猫からしたら、私たち大人は働きすぎです。もう少しこの猫を見習って、だらだらした方がいいかもしれませんね。

『まっくらやみのまっくろ』

まっくらやみのまっくろ
まっくらやみのまっくろ』(ミロコマチコ/小学館)

 大人になると、生活を変えるのも、自分を変えるのも、どんどん難しくなっていくように思います。本当は、今からでも変われるのに、いろいろな理由を探して、また同じ毎日を過ごしてしまいます。大人は、自分で自分の自由を奪ってしまう天才なのかもしれません。でも大丈夫です。大人だって、何歳になっても、何度でも、生まれ変われることを『まっくらやみのまっくろ』が教えてくれます。

 この絵本の主人公は、自分が何かもわからない“まっくろ”という生き物です。まっくろは、真っ暗闇の中にいて、どこまでが自分で、どこからが自分じゃ無いかさえも分かりません。信じられないほどに自分を見失っています。しかし、この状態からまっくろは、華麗なる進化を何度も何度も繰り返していくのです。体の真ん中からみなぎる力を爆発させて、ページをめくるたびに色も形もどんどん変わっていきます。

 そんなまっくろの姿を見ているうちに、不思議と自分も体にも生命力がみなぎってくるのです。ミロコマチコさんの絵から、生命力をアップさせる、何かしらのエネルギーが本当に出ています。そして、絵本を読み終わると、自分自身も生まれ変わったように感じ、明らかに自分の中の何かが変わっているのです。まっくろのように、見た目とか肩書とか、なりたいようになればいいじゃんと思える大人は素敵だと思います。自分を信じ、新しい自分をどんどん見つけたいですね。

 この3冊を読めば、固くなった頭もふにゃふにゃに柔らかくなります。頭が柔らかくなれば、きっと心も柔らかくなるはずです。難しことばかり考えているあなた。たまには絵本を読んでみるのはいかがでしょうか?

文=ひろたあきら

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