後味が悪すぎる映画で有名な「ミスト」の原作ってどんなの? スティーヴン・キング原作短編集は実は結末が違う…!

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/18

ミスト 短編傑作選(文春文庫)
ミスト 短編傑作選(文春文庫)』(スティーヴン・キング:著、矢野浩三郎ほか:訳/文藝春秋)

 今まで観たホラー映画の中で印象に残っているものを挙げていってほしい。その中に『ミスト』はないだろうか。私は後を引くラストの衝撃が未だに忘れられない。原作はマニアがこぞってすすめる『霧』というスティーヴン・キングの作品である。キングはアメリカのホラー小説の巨匠であり、2024年でデビュー50周年を迎えた。第一線で活躍し続ける作家の名作を、この機会に手にとってみてはいかがだろうか。

ミスト 短編傑作選(文春文庫)』(スティーヴン・キング:著、矢野浩三郎ほか:訳/文藝春秋)には、『ほら、虎がいる』『ジョウント』『ノーナ』『カインの末裔』『霧』の順に収録されている。キングの短編集『SKELETON CREW』より選ばれた、珠玉の初期作品集だ。

 本書は、『ほら、虎がいる』というショートショートからはじまる。授業中、意地の悪い先生にどやされつつ、尿意を我慢できなかったため主人公はトイレに行く。静まりかえった校舎のトイレに入ると、そこにはお腹を空かせた虎がいた。通常ではあり得ない場所に虎がいるという奇妙な組み合わせが、主人公の目線で読むことによって現実になる……。一気に現実と非現実の境を曖昧にし、スティーヴン・キングのホラーの世界へ没入していく。

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 続いては『ジョウント』。ジョウントという瞬間移動をして火星に行く家族の話だ。瞬間移動では搭乗者が眠る必要があり、子供たちの気を紛らわせるために、父親がジョウント開発の経緯を解説していく。一見、普通のSFモノに思えるが、ジョウントになぜ眠るという行為が必要かを知っていくにつれて、これは普通には終わるはずがない…と読者は不穏で嫌な予感に包まれることになる。その予想通り、一家が火星に辿り着いた時に、スティーヴン・キングらしい後味の悪い衝撃が待ち受けている。それは読んでのお楽しみ。

 ノーナの怒りの感情に同調して主人公の男が罪を犯していく『ノーナ』、銃社会の恐怖と闇を感じさせる『カインの末裔』も必読だ。

 それぞれに味わい深いホラーの短編を堪能したあとに、いよいよ『霧』がラストの話となる。

 邦訳だと200ページにも及ぶ中編小説で、タイトルの通り、霧が物語の要となる。嵐に襲われた町で物資調達のため、主人公たちはスーパーマーケットに行く。そこで街が原因不明の霧に覆われてしまう。見通しの利かない濃い霧の中から、突如モンスターが出てきて人々を襲っていく話だ。一方でスーパーマーケット内に残り、恐怖を抱え極限状態に陥る人々を描く人間ドラマでもある。2007年にアメリカで映画化し、日本でも『ミスト』として上映された。その後、Netflixでもドラマ化されている。

 2007年に公開された映画では、絶望的な結末が話題となっているが、実は原作の小説とは結末が異なる。映像化において内容改変はよくあるものの、結末の変更はスティーヴン・キングが絶賛するものとなっている。映画版はU-NEXTやAmazonプライムのレンタルで視聴することができるため、小説と映画の違いを比べてみるのも面白いはずだ。

文=山上乃々

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