開かずのトイレの秘密、ママそっくりのママではないもの… 怪異と戦う園児に中毒者続出! ホラーマンガ『カヤちゃんはコワくない』

マンガ

更新日:2024/3/15

カヤちゃんはこわくない

 主人公である幼稚園児・カヤちゃんの愛らしいイラストで侮るなかれ。怖いけどかわいいけど怖い。そのくりかえしがクセになる、『カヤちゃんはコワくない』(百合太郎/新潮社)はかなり本格的なホラーマンガである。

advertisement

 あんまり口数は多くなく、いつも一人で好き勝手にふるまうカヤちゃんは、幼稚園では問題児扱いされていて、友達もいない。でもそれは、彼女が常日頃から、自分にしか見えない幽霊(おばけ)と戦い、撃退して、みんなを守っているからだ。だけどそんなことを言っても誰も信じてくれないし、そもそも幼いから説明が上手ではなく、襲われたところを助けられた子たちでさえ、カヤちゃんにいじわるされたせいだと思い込んでしまう。そのことにただ一人気づいたのがチエ先生で、霊感があるわけではないけれど、たまたまチューニングが合って人ならざるものを撃退するカヤちゃんの姿を目撃してしまい、フォローにまわるようになるのだが……。

カヤちゃんはこわくない

カヤちゃんはこわくない

 不自然なテープで“何か”が隠された絵本。トイレの開かずのドアの向こう。ママそっくりの、ママではないもの。大人でも失神してしまいそうなくらいおそろしく描かれる怪異に、カヤちゃんはいつも颯爽と立ち向かい、むしろ嬉々として打ちのめす。

カヤちゃんはこわくない

カヤちゃんはこわくない

 だが本作は、単なる一話完結型の撃退ストーリーではない。なぜカヤちゃんはそんなに強いのか。その秘密が徐々に明かされていくのが第二の読みどころ。保育園に迎えにくるのはなぜかいつも父親で、母親は亡くなっているのかと思いきや、なんらかの事情で部屋から一歩も出てこない。さらにカヤちゃんの自宅には、おいそれと手出しできない巨大な怪異が潜んでいるようで、その秘密に近接した人たちにも異変が起きていく。その正体の得体の知れなさに戦慄し、読み進めるごとに期待値はどんどん膨らむばかりなのである。

 カヤちゃんの事情を知りながら守ろうとする大人はチエ先生だけでない。カヤちゃんのことを「カヤさま」と呼んで信奉する、どこからどう見ても変質者だけど、核心に近い何かを知っているらしい“モブおじさん”。彼が登場することで、物語は一気にコミカルに演出されていくのだが、ついつい笑ってしまうからこそ、その隙間に忍び寄る怪異の魔の手のおそろしさもまた、ぐんと増す。

 怪異が人を襲うのに、理由なんてない。運悪く、その場に居合わせてしまった。それだけで人は簡単に絶望に突き落とされて、命を奪われる。それが無垢な子どもであればあるほど、物語は残酷で切ないものへと変わる。だからこそ、せめてカヤちゃんだけは、彼女の手の届く範囲の人たちだけは無事でいてほしいと願わずにいられないのだ。

 少しずつ明かされるカヤちゃんの背景――家族の秘密を追いながら、令和の怪談にぜひとも背筋を凍らせてほしい。

文=立花もも

あわせて読みたい