ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、綿矢りさ『パッキパキ北京』

今月のプラチナ本

公開日:2024/3/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年4月号からの転載になります。

『パッキパキ北京』

●あらすじ●

舞台はコロナ禍の中国。単身赴任中の夫に呼ばれ、しぶしぶ北京で生活を始めた元・銀座ホステスの菖蒲。現地で待っていたのは過酷な隔離期間に、見慣れない食べ物、そして間近で体験する春節――とはじめてのことばかり。しかし“人生エンジョイ勢”の駐在妻・菖蒲はそのすべてを貪欲に堪能する! 中国滞在経験を持つ著者による“痛快フィールドワーク小説”。

わたや・りさ● 1984年、京都府生まれ。2001年、高校在学中に『インストール』にて文藝賞を受賞してデビュー。04年『蹴りたい背中』で芥川龍之介賞、12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、20年『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞を受賞。その他の著書に『勝手にふるえてろ』『嫌いなら呼ぶなよ』など。

『パッキパキ北京』

綿矢りさ
集英社 1595円(税込)
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

 

問わず語りの駐妻ラップin北京

北京の凍河はパッキパキ、愛犬その名はペイペイです。かわいいでしょ。ジコチューとも唯我独尊ともちょっと違うのがこの菖蒲。彼女がいるだけで拳術のごとき描写が繰り出されるスタンドアローン、究極の一人称小説。リズミカルでパワフルなのに、氷上を滑る石のように抗わない=NOTバッキバキ。中国四千年の歴史が生み出した道教や太極拳的な極意が、いまここに受け継がれている感じがする。小説には終わりがあれど、この主人公はきっとどこかにいる。万国駐妻読書会開催希望。

川戸崇央 本誌編集長。初めて絵本の編集を担当しました。高山一実×みるく『がっぴちゃん』発売中です! 今年の目標は『週刊プレイボーイ』で連載を持つこと。

 

ぎらぎら北京でCHILL OUT

はあ、人生エンジョイ勢を極める駐在妻の貪欲ライフですかい―と、ひがみ根性丸出しで読み始めた私はなぜか読後、すっかりととのっていた。高級ブランド品を買い、中華グルメを堪能し、若い男子とちょっとしたアバンチュールも楽しんでと、現世のきらきらを舐め尽くしながらも、それらの欲望と距離を取る姿勢を崩さない菖蒲。彼女のぎらつきに熱され、また冷静なまなざしに冷まされて、読んでいると次第にサウナ的な快感が訪れる。ああこれは、凝り固まった価値観に血が巡ったのだ。

西條弓子 新井すみこさん『気になってる人が男じゃなかった』2巻が発売。本誌連載の鈴木涼美さん「めめSHEやつら」のイラストも併せてご注目を!

 

知性と教養を身につける理由

異文化の塊のような小説だ。舞台となる北京の街はもちろん、なんといっても主人公・菖蒲のキャラクターが強烈! コロナ禍でも夫を置いて観光に駆け回り、買い物にも食事にもお金を惜しまず、どこでもインスタントな友達を作る。あまりの自由奔放さに最初のうちは面食らっていたけれど、だんだんその勢いがくせになっていく。終盤、私の想像をはるかに超えた彼女の行動原理がわかったとき、さらにファンになってしまった。新たな目標を見つけた菖蒲の快進撃をもっと読みたくなる。

三村遼子 3年間のブランクを経て、またダ・ヴィンチ編集部に加わりました。誌面もメンバーも変わってすっかり浦島太郎状態ですが、よろしくお願いします!

 

自分の軸がブレない強さ

元ホステスの主人公・菖蒲のふてぶてしいまでの力強さと、北京という街のカオスなパワーとが相まって、濃厚な読書体験だった。コロナ禍でも、旦那に離婚をちらつかされても、SNSで炎上しようとも、生きたいように生きる。自分の軸にブレはないが「みんな、好きに生きる権利がある」と、相手に押し付けない。「もし上手くできなくても、勝ちには変わりない。なんでなら最初から勝ってると、自分で決めてるからよ」どんな状況であっても、自分を信じる菖蒲の強さが、眩しく見える。

久保田朝子 作中には、日本と中国のブリッコの違いに関する言及も。中華風ブリッコは、濃度高めの“わんぱく”がチャームになっているそうで、興味津々です。

 

欲望のままに生きる楽しさ、忘れてた!

「もう大人なんだから」と自分自身に枷を嵌めたり、自らの欲求を忘れかけていた私にとって、本作は読んでいて痛快だった。自らの欲望に忠実な菖蒲は、夫をサポートせず、中国語が分からなくても気にせず、ブランド品片手に北京の食と文化を遊びつくす。面白いくらいに「自分」を真ん中に置き、「せっかく生まれたんだから、このラッキーを味わいつくさなきゃ」ととことんエンジョイする姿に爆笑。そうだ、人生はもっと自由でいい。あなたも、わたしも。忘れていた自由を思い出す物語。

細田真里衣 3年前に購入したレコードプレーヤーを初めて使ってみた。円盤が目の前で動く楽しさ、カラーヴァイナルの美しさにびっくり。初体験って楽しい!

 

刺激的な言葉の数々にハマる

なんてバイタリティあふれる女性だろう。広い北京を闊歩する菖蒲のその自由奔放さが、羨ましくさえ思う。「良きにつけ悪しきにつけ、結論がもうほぼ出てるのに悩んだりする人って不思議。(中略)結局やるくせに、しらじらしい。」「逆にネガティブなこと考えながら生きてる人ってすごいなと思う。」率直な彼女の言葉の数々が胸に突き刺さる。さまざまなしがらみに囚われやすく、悩みがちな現代人にこそ、この痛みはどこか気持ち良くも響くはずだ。痛快な読書体験をぜひ堪能してほしい。

前田 萌 スポーツジムに通い始めました。体を動かすのも楽しいものですね。まずは運動する習慣をつけたいと思います。果たしていつまで続くのか……。

 

菖蒲の流暢な思想に気持ちよく完敗

「事実はどうであれ、心の中ではいつも精神的に勝利してしまうんだ」。菖蒲の夫が『阿Q正伝』の自分の弱さを認められない愚かな阿Qについて語る。対する菖蒲の一言は「めっちゃエコじゃん。阿Q天才じゃね?」。このやりとりだけでも敵わない……と思わせられる。その後に続く菖蒲の考える“完全に勝利していて、一番偉く、コスパの良い人類”論に、すごいことを言っているのかも……と感じている時点で多分わたしは菖蒲に完敗している。この時代を生き抜くヒントがここにあり。

笹渕りり子 町田そのこさん特集を担当。映画『52ヘルツのクジラたち』では制作陣の作品に対する真摯な眼差しが伝わってきました。鼎談(P142~)もぜひ。

 

無敵だったあの頃に立ち返る

海外赴任中の夫からのSOSを受けコロナ禍の中国・北京に滞在することとなった菖蒲。さぞ大変だろうと思いきや、彼女は極寒の気候にも負けず春節を楽しみ、ローカルフードに臆せず挑み、現地で知り合った友人カップルの彼氏にもちょっかいをかける始末。最高にパワフルで思わず笑ってしまう。彼女が、恐れも知らぬうら若き10代の女子“ではない”のも、またいい。自分もこんな風に無敵だったこともあったような。周りの視線に雁字搦めになって苦しくなったら、またこの本を開こう。

三条 凪 創刊30年特別企画「令和版・解体全書」の最終回には綿矢りささんが登場。『パッキパキ北京』についても語っていただいています。本誌P50から!

 

街に惹かれ、そして人に惹かれる

北京での生活が巧みに描かれ、異国ルポを読んでいるような冒頭。中国の人々はパワフルでいいなあと思うのも束の間、異国の描写を楽しんでいたはずが菖蒲の一挙手一投足にワクワクしている自分に気が付く。情景描写に引き込まれたあとは、主人公の内面へ。この外から中へ、読書中の興味の動き方が気持ちいい。「私にとって知性とはムカつく相手をどれくらい早く言い負かせるかだし、教養とは狡い男に騙されず自分の好きなように生きるスキルのこと」座右の銘にしたい言葉が多すぎる。

重松実歩 思えばお酒の魔力と二日酔いの怖さをはじめて知ったのは、友人の家で日本酒四合瓶を何本も空けたときでした。日本酒特集、お楽しみください。

 

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