物価高の時代に強い味方! 安さ、ボリューム、栄養、そして独自性が光る10大学13食堂の学食探訪コミックエッセイ『学生食堂ワンダフルワールド』

暮らし

公開日:2024/3/12

学生食堂ワンダフルワールド
学生食堂ワンダフルワールド』(増田薫/JAFメディアワークス)

 令和となった今もなお、学生食堂は貴重な存在である。安価でお腹いっぱい食べられるイメージの強い学生食堂は、近年の物価高と外食料金の値上がりが激しいなか、大学生にとっての重要度は増しているのだ。

 本稿で紹介するのはコミックエッセイ『学生食堂ワンダフルワールド』(増田薫/JAFメディアワークス)。『いつか中華屋でチャーハンを』(スタンド・ブックス)も手掛けた増田薫氏が大学を訪問し「安い、うまい、量が多い」だけではない、その成り立ちや創意工夫などの特徴、そしてもちろん各メニューの味をマンガでレポートしている。

 役所や大学の食堂は一般に開放されていることも多く、そんな食堂グルメ好きにはたまらない。また、この春に東京の大学に入学する人や、行きたい大学を選ぼうとしている人の参考になる一冊だ。

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美味しい大学はどこ? 学生食堂を訪問して食べまくり!

 本作で訪問し、取材したのは多摩美術大学、慶應大学、明治大学、神田外語大学、東京農業大学、千葉商科大学、大正大学、東京大学、大阪大学、國學院大學。これら10校13食堂のエピソードのなかからいくつかピックアップして紹介する。

・多摩美術大学(八王子キャンパス)
 増田氏の母校、その八王子キャンパスの食堂は、個人経営の「イイオ食堂」と、1994年に新設された「東学食堂」がある。どちらも価格は抑えられており、昭和~平成を経ても価格の上がり幅は大きくない。「イイオ食堂」ではカレーライス390円、ハンバーグディッシュが330円。「東学食堂」でもロースカツ定食が500円で食べられる。総じて500円以下で、さらにこれが半額になることもあるというから驚きだ。加えて学内にキッチンカーも入り、今どきのおしゃれなフードもテイクアウトできる。なお各メニューの金額は本書掲載のものなので、現在変更になっていたらご容赦いただきたい。

・明治大学
 駿河台キャンパスリバティータワーにあるのが「スカイラウンジ暁」。眺望が素晴らしい地上17階のロケーションで「暁ランチ」という味噌味ソースのかかったメンチカツ丼など、ボリュームとコスパの良さは抜群。また、ラーメンが全種類ハラールに対応しており、ムスリムの留学生も喜んでいるそうだ。彼ら留学生たちはそれほど人数が多いわけではないが、明治大学は「学食は少数派や困っている学生の味方でもあるべき」というポリシーをもってやっているとのこと。

・神田外語大学
 こちらのアジアン食堂「食神」は、外国人留学生を強く意識している。内装と外装、そして味ももちろん本格的で、各国の教員たちも納得できるレベルの外国料理を出している。またこの「食神」は日本で初めて「ムスリムフレンドリー認証」と「ハラール認証」を取得した学生食堂で、イスラム圏の先生や学生たちも安心して食べられる。同学には「食神」を含めて3つの食堂と2つのカフェがある。増田氏は「外国人同士のコミュニケーション環境づくりにも役立っているのでは」と紹介を結んでいる。

・東京農業大学
 大学の専攻を生かし、ハイレベルな食材を使っているのが同学の「レストランすずしろ」だ。特徴は、卒業生が就職した肉の生産会社や農家や農協からの直接仕入れを行っていること。同じく米、味噌、調味料、乳製品の材料までの仕入れにも卒業生が関係している。増田氏も食材の良さを感じられる美味しさにかなりテンションが上がっていた。

学生への愛があふれる食堂に行きたくなる

 本作で最後に書いているのが「学生食堂は皆、どうにか安く、少しでも野菜を多く、お腹いっぱい食べられるボリュームで、少数派にも配慮したメニューを用意している」ということだ。本稿では細かく触れなかったが、作中に学生食堂の涙ぐましい努力や創意工夫がたっぷりと描かれているので、ぜひ注目してほしい。学生食堂の関係者は皆「学生食堂は大学生にとって重要なもの」ということを分かっているのだ。

 本稿ライターの私は、読んでいて大学時代が思い起こされた。私の出身大学の食堂は当時、他大に比べて安くなく、味も「普通」という印象だった。ただ、本作を読んだ今は「あの学生食堂の関係者が学生のことを考え尽くしてくれた結果だったのかも」と思える。ふと、あの学生食堂を調べてみると、リニューアルされており評判も良いようだ。食べたすぎる……。

 みなさんは読み終わったら、まんまと作中の学食に行きたくなるはずだ。そして特に卒業生だったとしたら、あの頃を思い出して母校に足を運んでしまうかもしれない。

文=古林恭

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