「人が死なない科がいい」と考えていたけれど… 研修医の七転八倒を描いた『あたふた研修医やってます。24時間お医者さん修行中コミックエッセイ』

マンガ

公開日:2024/4/17

あたふた研修医やってます

 研修医が医師として独り立ちするまでの道筋を描いたリアルなコミックエッセイ『あたふた研修医やってます。24時間お医者さん修行中コミックエッセイ』(水谷緑&POCHI/KADOKAWA)。本作を読むと、医師は医師である前に人間であること、研修医という医師のたまごの時代があることを考えさせられる。


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 研修医とは医師の見習いのこと。研修医制度とは、2年間という決められた期間の中でさまざまな科を経験し、最終的に専門とする科を決める教育システムだ。

 本作は、研修医として大学病院に勤務するポチさんの視点で、2年間の濃密な研修期間が描かれている。研修医の大変さを垣間見られるだけでなく、クスッと笑える小ネタからほろりと泣ける姿まで、一般の人には知る由のない内容がたっぷり読める。

あたふた研修医やってます

 医学生のポチさんは、医師国家試験に合格し、医学部卒業後に大学病院の研修医となる。救急医療現場で看護師から指示を仰がれるが、すぐ別の看護師に「それは研修医だよ! はやく先生呼んで!」と言われてしまう。その瞬間、ポチさんは「自分はまだ医師ではない」と気づくのだった。

あたふた研修医やってます

 上記は、現場において研修医と医師との扱いが違うことがよくわかるエピソードだ。どの職業も新人と経験豊富な人間の間には差があるが、研修医制度というのは、その差をより明確にした上で研鑽を積むための環境を整えた制度なのだろう。

 当然ながら、患者と接することはもちろん、手術も、点滴や注射も、カンファレンスもすべてが初めてだらけ。ポチさんが研修医としてたくさんの「初めて」を経験し、乗り越えていく姿は、読めば読むほど応援したくなる。

 特に注目なのが、ポチさんにとって大きな転換期となる2つの出会い。1つは、死を目前に控えた末期患者のY岡さんとの出会いだ。ポチさんは「死期が迫る患者に対し、自分に何ができるのか」と自問自答しながら、とにかく毎日Y岡さんの病室を訪れ、たわいもない話をする。大学でもほとんど学ばなかった「人の死」と向き合うポチの姿は、読者としても考えさせられる。

 もう1つは、循環器内科の熊野先生との出会い。研修医としてさまざまな科を経験する中で熊野先生と出会ったことで、循環器内科医になることを志す。

あたふた研修医やってます

「人が死なない科がいい」と、初めは精神科医になろうと考えていたポチさんが、循環器内科医を志す過程はぜひ読んで体感してほしい。

 研修医は医師のたまごであり、2年間で研修を終えたら巣立っていく。本書は2014年に発行された作品なので、きっとポチさんはいまでは誰が見ても立派な循環器内科医として目の前の患者と対峙しているのだろう。

 どんなに立派な医師にも、本書のポチさんのような修行期間があったということを知っておくだけでも、これから医師を見る目が変わるかもしれない。

文=ネゴト/ すぎゆう

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