室木おすし氏とヨシタケシンスケ氏の誰かに褒められたエピソードとは? たまに思い出して勇気づけられる短篇漫画集

マンガ

公開日:2024/3/18

たまに取り出せる褒め
たまに取り出せる褒め』(室木おすし、オモコロ編集部/KADOKAWA)

 ずっと昔、誰かに褒められた記憶が、今なお自分を内側から温めてくれると感じることはないだろうか。私は会社に属さずフリーランスとして20年働いているので、上司や先輩はいない。しかし、編集者や取引先、あるいはライター仲間から褒めてもらうことがある。

 そういった「誰かがくれた褒め言葉」の数々をノートに残していて、落ち込んだり自信をなくしたりしたときに読み返す。すると、「自分には才能がないって悲観していたけれど、この人がこんなふうに褒めてくれたんだから、なかなかのものじゃない?」と思えるのだ。

 ある種の自家発電装置のようで気恥ずかしさもあり、大っぴらには言えなかったのだが、2024年2月14日に発売された『たまに取り出せる褒め』(室木おすし、オモコロ編集部/KADOKAWA)の題名を見て、「ここにも褒めを取り出している人がいる!」と驚いた。

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『たまに取り出せる褒め』は、著者の室木おすしさんの実体験や読者から寄せられた思い出すとにんまりしてしまう「誰かから褒められた記憶」を漫画化した本だ。もともとはWebメディア「オモコロ」の連載だったが、書籍化にあたり、絵本作家・ヨシタケシンスケさんとTVプロデューサー・佐久間宣行さんの「褒められ」エピソードも収録されている。

 室木さんは、中学1年生のとき、友達とのお菓子パーティーに「ピザポテト」を持参し、その選択に対して「お前まじセンスあるわ」と褒められたという。褒めたほうは、何気ない一言だったかもしれない。しかし、室木さんは「その言葉はたしかに熱風を携えて私の体を突き抜けた」と感じ、40を過ぎた今なお、そのときの褒めを嬉しく思っているそうだ。

思えば人生 そんな小さな褒めを取り逃さず
身体の周りに積み重ねることで
私という輪郭ができた気がする

そしてたまに その褒めを取り出して
家にある綺麗なビー玉のように覗くのだ
(p.18~19より引用)

 私がノートに残している「誰かがくれた褒め言葉」も、伝えたほうはきっと覚えていないだろう。しかし、そんなことは関係なく、その言葉は今でも私を温めてくれている。

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 自らを「大学に友達もいない怠惰で平凡なドルオタ」と称するしょうじさんの場合は、5歳の頃に年下の女の子からもらった「あなたみたいになりたい」の言葉が、今も自分を前に進める「ひと押し」になっているという。

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 絵本作家・ヨシタケシンスケさんのエピソードは、のちにベストセラーとなる第一作の絵本『りんごかもしれない』を出版した少し後、それを読んだ大学時代の友人から「ヨシタケさー、あれ描いてて楽しかったでしょ」という言葉をもらった、というもの。

その言葉は この作品を超え
私そのものを全て肯定してくれているように思えて
私はとても嬉しかったのです。

内容が面白かったではなく
私が楽しんでいるように思ってくれたことがとても
(p.139~p.140より引用)

 誰かに褒められた記憶は、他人のものでも嬉しくなるし、心がほかほか温かくなる。人格や功績に対する褒めでなくても、「(ピザポテトを選ぶなんて)お前まじセンスあるわ」といったささやかな褒めでも構わない。

テキスト

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 私が過去に人からもらった褒めを忘れられないように、私が何気なく発した褒めも、どこかで誰かを内側から温めるかもしれない。そう考えると、無性に嬉しくなる。この本を読み終えて、この世界にちりばめられている褒めの連鎖が浮かび上がってくる気がした。

文=ayan

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