かつて長者番付1位の清原達郎の投資ノウハウ。「株式投資は自分の失敗からどれだけ学んだか」と語る彼が、自身の知識を全てぶちまけた『わが投資術 市場は誰に微笑むか』

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公開日:2024/3/15

わが投資術 市場は誰に微笑むか
わが投資術 市場は誰に微笑むか』(清原達郎/講談社)

 日本では「貯蓄から投資へ」と叫ばれて久しい。世界的なインフレの波を受けて、上昇し続ける物価。反比例して、下がり続ける賃金を目の当たりにする時代とあっては、“雀の涙”ともたとえがたい銀行の利息に頼るより、投資によって“今ある資産”を増やそうと願うのは自然だ。

 投資といっても、種類は様々。そのひとつである「株式投資」に興味を寄せる声も少なくない。2024年には、投資における新たな税制優遇制度「新NISA(少額投資非課税制度)」がスタートし、日本国内の“投資熱”がますます高まりつつある。

 書籍『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(清原達郎/講談社)は、まさしく時流に沿った1冊だ。かつて、サラリーマン投資家として「長者番付1位」に。「個人資産800億円超」を誇るも、咽頭がんの手術で声を失くした著者は「私には後継者がいない。ならばすべてのノウハウをぜんぶ『ぶちまけてしまえ』という気持ちになった」と、強く言い放つ。

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■「常識を疑う」のが投資の出発点に

 野村證券、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー…。2023年、投資業界の最前線からの「引退」を決意するまで、著者は名のある証券会社をいくつも渡り歩いた。経験から、株式市場は「個人が自由に儲けることができる市場」だと達観。本書では語りかけているかのような口調で、投資にまつわる“誤解”をといていく。

 投資のスタートは「常識を疑う」ことだとは、一つの学びだ。株式市場では、大多数と同じ考えでいると「大損」をしやすく、少数の考えでいれば「間違っても損失が少ない」と、著者は俯瞰する。他の誰とも違う考えこそが「投資のアイデア」となるのだ。

 例えば、大多数が「A社の株はこれから5年間、年率10%増で行ける」と考えている中、自分だけが「いや、30%増益で行ける」と考えた場合。それは「立派な投資アイデア」となり、やがては「大きなリターン」を得られる可能性も高まるという。

■大多数とは“逆”の思考が将来的な「チャンス」に

 あらゆる情報には「バイアス(偏り)」がある。株式市場では証券アナリストなど、いわゆる“その道のプロ”の声が数多く見られるが、むしろ、「バイアス」が大きいときほど「投資のチャンス」だと、著者は経験則を説く。

 一例は、コロナ禍まっただ中の「メガバンク株」だった。緊急事態宣言もあり、街中でも人がまばらになった当時。世間ではリモート環境への移行も進む中、大多数の投資家の間では「フィンテックがあれば銀行はもういらない」とする声もあり、メガバンク株が大量に投げ売りされた。

 しかし当時、自身の立ち上げたファンドで著者は「最大のチャンスがやってきた。これはラッキーだ。買えるだけ買おう」と衝動的に決断した。やがて、コロナ禍にほんろうされた世間が落ち着きを取り戻しはじめると、メガバンク株は高騰。「所詮、人類がウイルスに負けるわけがない」と信じていたのが功を奏して、のちに売却益を得られたとは驚きだ。

 株式投資に「才能」はなく「自分の失敗から、どれだけ学んだか」に尽きるとは、著者の主張だ。投資には“生きざま”が反映されるというのも、本書から汲み取れる学びだった。

文=カネコシュウヘイ

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