看板猫の視点で描かれる動物病院の日常。既刊に新作2編を加えた、新版『しっぽのお医者さん』が刊行

マンガ

PR公開日:2024/3/26

しっぽのお医者さん
しっぽのお医者さん』(講談社)

 ねこまき氏による最新作『しっぽのお医者さん』(講談社)では、看板猫「ハル」の視点を通して、動物病院の日常とそこで織りなされる心温まるエピソードが描かれている。本書は、絶版となった単行本『しっぽのお医者さん』(朝日新聞出版刊)の中から抜粋した25編に描き下ろし新作2編を加えたファン待望の新版だ。

 本作の主役は、ある日春山動物病院にやってきてそのまま看板猫となったハル。普段は「院長」と呼ばれている。人間の言葉は話せないけれど、(本物の)院長の春山先生や病院のスタッフ、そして訪れる動物たちとの心温まる交流を、ハルの目を通して描き出している。

 予防接種が怖くて毎年大暴れする犬、「長生きってのも考えものだなぁ」とポロポロ涙を流す亀、猫の鳴き声を真似るインコ、病院の前に捨てられていた4匹の子猫たちなど、様々な動物が病院にやってくる毎日。ハルはそれらの動物たちとどのように会話を交わし、日々を過ごしているのだろうか。

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 ねこまき氏はこれまでに、『まめねこ』や『トラとミケ』といった作品で、猫を中心にした物語を数多く描いてきた。また、『ねことじいちゃん』は2019年に実写映画化もされるなど、その作品は幅広い世代に愛されている。『しっぽのお医者さん』では、そんなねこまき氏の描く動物たちの魅力がより発揮され、動物たちとの日々のふれあいの中で見えてくる、生命の尊厳や絆の大切さをやさしいタッチで描き出している。

 本作の魅力は、ハルや他の動物たちの視点から見た世界の描写にある。彼らの目を通して見る世界は、時に人間よりも純粋で、真実を捉えている。動物たちと人間のコミュニケーションは言葉に頼らないため、非言語的な交流の重要性が強調され、読者にとっても新たな気付きを与えてくれるだろう。

 この物語のもう一つの大きなテーマは「家族」だ。動物病院のスタッフや動物たちとその飼い主は、血のつながりを超えた家族の形を示している。互いの信頼と理解に基づく強い絆は、困難な状況に直面した時にもその力を発揮し、読者に深い感動を与える。

 動物たちとの別れや新たな出会いは、生命のサイクルを象徴している。本作は、喜びと悲しみが共存する動物たちの生き様を通じて、生と死のテーマを深く掘り下げる。また、捨てられていた子猫たちが新しい家族に迎えられるエピソードなど、再生と希望のメッセージも込められている。

『しっぽのお医者さん』は、動物たちと過ごす日々の中で見つかる小さな幸せや、生命を育む大切さを伝える作品だ。ねこまき氏の描く心温まるこの物語は、動物好きはもちろん、あらゆる世代の読者にとって価値ある一冊となるだろう。

 動物たちの純粋な目を通して描かれる世界は、私たちに大切なことを思い出させてくれる。それは言葉にはならないけれど、心で感じることのできる絆の深さと、生きとし生けるものすべての生命に対する敬意だ。『しっぽのお医者さん』は、日常の忙しさに追われがちな私たちに、立ち止まり、周りを見渡し、そして大切なものを大切にすることの意味を教えてくれる作品なのだ。

文=ネゴト/ ニャム

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