「良い写真」とはどんな写真のこと? カメラマン歴8年のプロが写真の教科書を読んでみた

文芸・カルチャー

更新日:2024/4/15

カメラじゃなく、写真の話をしよう"
カメラじゃなく、写真の話をしよう』(嵐田大志/玄光社)

 桜並木、入学式、大型連休などなど、シャッターチャンスの多い季節がもうすぐそこまで近づいてきている。スマートフォンの普及に伴い、全く写真を撮らないという人はほとんどいない時代。「春になったら、良い写真をとるぞ!」と意気込んでいる方も多いのではないだろうか。ただ、その「良い写真」ってどんな写真?と聞かれると、すぐに答えるのは難しいはずだ。

 それを考えるときにヒントになりうるのが、『カメラじゃなく、写真の話をしよう』(嵐田大志/玄光社)だ。

advertisement

良いカメラで撮る=良い写真が撮れる?

 写真の話になると、「良いカメラで撮ることで良い写真が撮れる」と考える人はかなりの数いると思う。しかし、本当にそうだろうか。一度考えてみてほしい。本書でも、下記のように書かれている。

良い包丁を買っただけで「美味しい料理」を作ることはできないと多くの人が理解できるのに、こと写真においては、シャッターボタンさえ押せば写ってしまう敷居の低さからか、良いカメラがあれば「良い写真」を撮ることができると思われがちなのです。(p.14〜15より引用)

 私は一眼レフカメラを使い始めて今年で15年。現在はカメラマンとして、撮影でお金をいただくこともある立場だが、ドキッとする言葉である。あなたはどうだろうか?

熊本県の鍋ヶ滝にて
熊本県の鍋ヶ滝にて

 あるいは私の場合、撮影の知識を増やして、さまざまな技術・技法を得ることで、自分が良い写真を撮れるようになるのだろう、となんとなく考えた時期があった。

 いま振り返れば、半分くらいは誤解を持ったまま写真を撮っていたんだなと感じる。いくら技術を持っていたとしても、それはあくまでも調理法を知っただけで、「美味しい料理」を作れることとは似て非なるものなのだ。

あなたはどんな写真を撮りたいのか?

 さて、「良い写真」に話を戻そう。写真に携わる仕事をしているが、実は私も「良い写真とは?」と聞かれても、未だに言葉に詰まってしまう。考えても答えは出ないんじゃないか……と感じることもある。

長岡まつり大花火大会での一枚
長岡まつり大花火大会での一枚

 ただ、近年は「少なくとも“自分にとっての”良い写真」がどういうものかはわかってきたように感じている。そして、それが最も大事なのではないかと思っている。

同じ写真であっても、ある人にとっては「良い写真」が、別の人には「良くない写真」や「何とも思わない写真」になり得るし、その逆もまた然りなのです。(p.178より引用)

 そう、そうなのだ。普遍的な良さを探すから、話がややこしくなる。まずは“自分の思う良さ”を、あるいは“自分なりの好き”を見つけるところから始めればいい。その“良さ”を表現するための技術、それに合ったカメラの機能を探していけばいい。

 現在のところ、私にとっての良い写真は、「空気感の伝わる写真」というものだ。気温・香り・時間帯、あるいは風や音など、決して写真に写ることはあり得ないものを感じられるような、そんな一枚を撮れるようになりたいと考えている。

友人の結婚式にて
友人の結婚式にて

 本書を読んで、改めて自分にとっての写真がどういうものかを見つめ直すことができた。また新たな気持ちでシャッターを切れることがとても嬉しい。

 この本を読んでも直接的に撮影技術が得られることはほぼないだろう。また、「良い写真とは?」という問いに明確な答えが出るわけではないかもしれない。でも、少なくとも「あなたにとっての良い写真」を掴むヒントにはなるはずだ。この春、多くの人が撮影を楽しむ時間が増えますように。

文=岡本大樹

あわせて読みたい