『ヒナまつり』大武政夫の新作! 最強の殺し屋と小学生女子が入れ替わってしまった!? 笑撃の新感覚コンビアクションコミック『J⇔M ジェイエム』

マンガ

公開日:2024/4/19

J⇔M
J⇔M ジェイエム』(大武政夫/KADOKAWA)

 美女と野獣のコンビで敵を倒す。まさに王道のエンタメだ。ただ本稿で紹介する作品は、野獣は最強の殺し屋と呼ばれる男で、美女は小学生女子なのだ。どう考えても訳アリな凸凹コンビ。ちなみに少女が猛獣使い、というわけでもない。

 その『J⇔M ジェイエム』(大武政夫/KADOKAWA)のポイントは、殺し屋と小学生の入れ替わり。つまり、殺し屋の中身が小学生女子で、もう一方はその逆なのである。「情報量、多すぎ……」と思わずツッコミたくなる、ハードボイルドで笑えるコメディタッチの新感覚バディストーリーだ。著者の大武政夫氏といえばアニメ化もされた『ヒナまつり』(KADOKAWA)を思い出す人も多いはず。個人的には、あのサイキック少女とヤクザの繰り広げたハチャメチャな日常ストーリーの面白さを超えてくる面白さだった。

advertisement

裏社会で恐れられる最強の殺し屋が小学生の体に?

 子どもの頃から殺人マシーンとして育てられた男・Jは、強すぎるがゆえに自分が所属していた組織から狙われるも、これを返り討ちにした。その後、複数の組織から襲われ、そのすべてを壊滅させた時、彼は最強の殺し屋として裏社会のアンタッチャブルな存在になった。

 そんな彼が、ある日自宅マンション内で出会ったのが小学生の少女・赤星恵(あかほしめぐみ)。ふたりはマンションの階段で激突し、そのときに頭をぶつけ合う。次の瞬間、ふたりの中身が入れ替わる。

 ふたりは各々の生活に支障が出ないよう、Jは恵の家に帰り、恵はそのままJのマンションで過ごす。元に戻る方法が見つからないなか、J宛の依頼は、小学生女子の体のまま本人が遂行していく。そんな恵は、もともと「学校にも家にも居場所がない」子どもだった。なんだかんだ世話をやいてくれるJに懐き、なぜか状況を積極的に受け入れる。なお、彼女の影響で、Jは明らかな悪人だけを倒すように方向転換していった。

 かわいらしい少女の姿のまま仕事をこなすJだったが、やがて依頼の仲介人や裏社会の一部に「何かJの様子がおかしい」と疑念をもたれるようになる。こうして、いよいよJの健在ぶりを示すため、殺し屋の皮をかぶった小学生が戦いの場に出ることに。恵の姿であるJは、自分の体と小学生女子を守って戦い続けられるのか――。

裏社会で生きる子どもと少女漫画で胸キュンになる殺し屋の笑える日常

 このようにあらすじを書くと、シリアスな話のようだ。確かに手に汗握るバトルシーンも見応えがある。ただ、前述の通り本作はハードボイルドで笑える物語なのだ。

 まず、中年男性と少女のかみ合わない会話は、良い意味での違和感があり、入れ替わって顔に傷だらけのJが小学生の子どもになるところでお腹が痛くなるほど笑った。また、作画クオリティが高いのもポイントだ。コメディ漫画は作画のクオリティが高ければ高いだけ“緊張と緩和”が激しくなり、面白さが増すと思う。

 さらに、Jが意外と子どもらしい子どもになってしまうのもいい。実は彼は殺し屋としては最強だったがポンコツ気味であった。格好良いという理由だけで、ウイスキーをロックで嗜み、葉巻をふかし、部屋の本棚には一切読めない大量の洋書を並べていた。会話では必ずハードボイルドな台詞でキメようとしていたが、語彙が足りないため格好良いというより笑えるたとえを口にしていた。ある意味では、普通の小学生でいいようだが、問題は勉強だ。そもそも、Jはまともに学校に通っていなかったためまったく勉強についていけないことで教育に厳しい恵の母親に叱責される。アンタッチャブルな最強の殺し屋は、これに恐怖する。

 ちなみに恵は勉強ができる頭の非常に良い子どもだ。状況に馴染むと、J本人以上のハードボイルドな台詞を口にする。しかしやはり中身は小学生。格好良くキメながら少女漫画にキュンキュンし、甘いおやつに心躍らせ、きのこ型のお菓子とたけのこ型のお菓子で悩むのだ。

 入れ替わりジャンルや、アウトロー、ダークヒーロージャンルのマンガはそれぞれ数多くあるが、本作はこのふたつの化学反応が興味深い作品だ。ふたりの笑える活躍を、ぜひ楽しんでほしい。

文=古林恭

あわせて読みたい