2005年10月号 『働きマン』 安野モヨコ

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/26

働きマン(1) (モーニングKC (999))

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:安野モヨコ 価格:555円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2005年09月06日


『働きマン』 安野モヨコ 講談社モーニングKC 1〜2巻 各540円

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松方弘子、28歳。週刊『JIDAI』の編集者をしている彼女は、企画立案、取材、原稿執筆と精力的に働いている。自然、付き合っている彼氏とも疎遠になりがち。友人には「どうして『適度に』ができないの 仕事も男も」と言われている。マイペースに仕事を進める新人編集に、仕事に対してがむしゃらな自分の姿勢を揺さぶられながら、それでも仕事モードに入れば、寝食どころか恋愛、衣飾、衛生の観念すら忘れて仕事に没頭する。「あたしは仕事したなーーって思って死にたい」
編集者、ライター、セラピストなど、様々な職業に携わる人々の、それぞれの仕事の姿勢、こだわり、折り合いのつけ方、葛藤が、彼ら自身の視点から丹念に描かれる。

あんの・もよこ●1971年、東京都出身。高校卒業と同時に『別冊フレンドジュリエット』にてデビュー。その後『FEEL YOUNG 』で発表した『ハッピー・マニア』が大ブレイク。ドラマ化もされる。その後も『ジェリービーンズ』 『花とみつばち』 『さくらん』 『シュガシュガルーン』など、ヒット作を発表し続けている。


横里 隆
(本誌編集長。初めて夏バテを経験した。頭も身体も動かなくなって迷惑をかけてしまった。すみませんでした。でも取り返しのつかないことばかり……)

あなたが働いているのなら自分自身に贈ってほしい本


人はどこから来て、どこへ行くのか?答えのない根源的な問いの狭間、生まれ来て、逝くまでの時間を埋める最長の行為が“働く”ことだと気付いた。それは得てして、恋をしている時間よりも、育児をしている時間よりも長い。かくいう僕も今までずっと働いて働いて働いてきた。フリーターという存在やセミリタイアという行為を横目で見て、隣の芝生の輝きに目を細めつつ、それでもがむしゃらに働いてきた。そのことに悔いはない。本書の中で今どきの新人編集者は言う「オレは『仕事しかない人生だった』そんなふうに思って死ぬのはごめんですね」と。返して松方は言う「あたしは仕事したな——って思って死にたい」と。しびれた。両者の言い分に正誤も善悪もない。著者がそんな二元論で“働く”ということを描こうとしているのではないこともわかる。でも、世間では会社に迎合することは格好悪いという価値観があり、それが自分のコンプレックスにもなってきた。組織や社会の中であがきながら、外からの要請と内からの欲求との接点を何とか見つけて働きつづける。それもまた格好いいかもよと本書は言ってくれたようで、しびれたのだ。この本は、働き働いて、迷い迷って、それでも働きつづける自分に贈りたい。


稲子美砂
(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当)

どうがんばっていいかわからない人に


扱うネタに違いはあれど、雑誌編集部が舞台となれば、どうしても、現実の自分の状況を重ねて読んでしまう。安野さんは相当取材をされているのではなかろうか。編集部内で飛び交う言葉のやりとり、それぞれの編集者のポジション、彼らの迷い、いらだち、誇り、嫉妬、常に時間に追われる現場の緊迫感などが、驚くほどリアルに描かれているからだ。「『やりたい企画』と『通る企画』は違うのだよ」「やれない理由をきいてるんじゃなくて、どうやるかをきいているんだ」等、耳のイタイお小言も満載でちょっと苦笑い。主人公・松方弘子は猪突猛進のデキる編集者だが、彼女だって戸惑いはある。「自分の目の前の仕事、全力でやることが何の役に立ってんだ?って思えて」。雑誌という一見世間と綱引きをしているような仕事だけど、日々これの繰り返しだものなあ。派手で自由なのも真実、地味で着実であらねばならないのも真実。編集・出版に関わるさまざまな人の戦い方も描かれているので、毎日の仕事をどうがんばっていいかわからない人にお薦めしたい。


岸本亜紀
(怪談関係が落ち着いた今日このごろ。出産に向けて次次号よりしばし休みに入ります。復帰の際はどうぞよろしくお願いします)

リアルな女の働きマン今後どうなるのか楽しみだ


これまで数々の編集者を題材にした作品があったが、この作品はとてもリアルだ。実際、出版界でばりばり働いている女性は、男性顔負けの集中力や行動力、持続力を発揮するし、大胆でかつ斬新、はっきり言って女性の方が優秀なのでは?仕事がノッてきたら、最低限のおしゃれとマッサージは欠かさないけれど、男なんて二の次三の次。仕事はできる人に集中するからどんどん増える。そしたら目立っていさかいが起こるし、仕事以外の仕事も増える。礼儀もできていない後輩の指導やら人事の手伝い。エピソードはバラエティに富んでいてとても楽しいし、登場人物は単なるアホから勘違い人間、かつての栄光にひたっている終った人、旅に出る人、自意識過剰……といるいる!って感じ。2巻ですでに働くということを描いた普遍的な作品に仕上がっている! このシリーズ、今後、働きマンが仕事以外の選択肢に出会うとき(出産とか)、どうなるのか楽しみだ。


関口靖彦
(長嶋有さんのエッセイ集『いろんな気持ちが本当の気持ち』にハマり何度も読んでます)

君がウルトラマンならば、3分間を何に使うか?


1巻の表紙を見て、「おお、セブンのエメリウム光線のポーズ」と思った。本をひらくと、第1話から主人公・松方弘子は働きマンに“変身”。ここぞという時には仕事モードをオンにして、ふだんとは段違いの力を発揮するのだ。その“ここぞ”は、ウルトラマンの3分間だ。毎日毎分毎秒、超人的な力を出せるのなら苦労はないが、そんなふうに人間はできていない。“ここぞ”の3分間で必殺光線が出せるように、パワーをためる時間も必要だ。では、いつどこでその3分間を使うのか。そして君の必殺技は何か。このマンガは松方だけでなく、いろんな人のいろんな光線を見せてくれるから、読者も「じゃあ自分は?」と考えることになる。その刺激は、読み終えたあとの実生活にも力を与えてくれる。


波多野公美
(この夏は、「本作りマン」になって働いています。終わったら、どこか景色のキレイなところに、旅行に行きたいです)

あなたは自分の仕事が好きですか?


今、一所懸命仕事をしている人、または過去にその経験がある人に、性別職種を問わず、おすすめのマンガだ。ヒロインは松方弘子だが、群像劇スタイルでいろいろなタイプの「働きマン」が描かれる。仕事の数だけ働き方があり、想いがあり、事情があり、喜怒哀楽がある。たくさんの「働きマン」たちが絡み合い展開される物語は、仕事が持つ輝きはもちろん、ときにその果てにある過労死さえも容赦なく描き出すリアリティに満ち溢れ、読者自身の働き方をも振り返らせる強い力がある。あなたは自分の仕事が好きだろうか? どんな働き方を、なんのためにしているのかを自らに問うきっかけとなる一冊だと思う。


飯田久美子
(WEB ダ・ヴィンチで先月よりスタートした連載『さとう珠緒のバカブックガイド——恋愛教科書編』が大変なことになってます。見といたほうがいいですよ)

なかなか起きない働きマン


仕事ができて、きれいで、元とはいえ巨乳で、いつも一生懸命で、後輩から慕われ、上司から信頼され……欠点らしい欠点のほとんど見当たらない働きマン・松方弘子。自分とは全然ちがうはずなのに、それでもどの話を読んでもいつも何かを思い出す。たとえば。これは本当に良心の呵責だろうかと思い悩んだ日のことを思い出す。自分がいい子でいたいだけなんじゃないかと気づいた日のこと。汚れを引き受けることが仕事なんだと思った日のこと。それでも仕事したいと思った日のことを思い出す。その度にわたしの中にも働きマンがいることを思い出し、なかなかオンにならないことを少し悔しく思う。あと、松方弘子の足癖が悪いところが好きだ。仕事ができて、きれいで、巨乳の先輩を思い出すから。


宮坂琢磨
(いつのまにか梅雨が終わっていて、いつのまにか夏も終わりそう。悔しいから『魔太郎がくる!!』を読んでいる)

働いている人々、それぞれの生き方が輝く


この作品で描かれる人々は、基本的に仕事ができ、自分の仕事に対するスタンスが確立されている。だからこその葛藤が描かれているのだ。そのなかで異彩を放っているのが新人編集・田中である。仕事に命をかける主人公、松方のスタンスの対照として描かれる彼は、仕事を一人前にこなせるわけではないのに「やりたいことをのんびりと楽しくやってます」とほざく。その時点で、松方のライバルとしては明らかに弱い。仕事ができないくせにマイペースという、今のままではいられない彼がどう変わるのか、フェードアウトするのか、一念発起するのか。新人編集という立場から田中の動向につい目がいってしまう。

イラスト/古屋あきさ

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