消えてゆく遺体、完全犯罪の香り

小説・エッセイ

更新日:2013/7/8

怪物

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:福田和代 価格:648円

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定年を間近に控えた香西は千住大橋署の刑事生活安全組織犯罪対策課に所属している刑事。香西には他の刑事にない、特別な「勘」が備わっている。彼自身もなぜかわからない、人にも話せないが、確実に事件解決に役立つ「勘」。それは、「死」の匂いを現場で嗅ぎ取れることだった。

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その場で死んだ人間の苦悩や苦渋や痛み、驚愕の度合いで「匂い」の強弱まで区別することができる。その勘を頼りに、犯罪者を刑務所に送り込んだこともあるものの、エスパーのように人々を救えるわけではない。事実、彼にはどうしても忘れられない未解決のまま時効を迎えた幼女殺人事件があった….。刑事にそんな超能力が? という疑心暗鬼からすっかり救ってくれるのが、淡々とした文体。地味な部署の地味な刑事が地味に執念の事件と対決してゆく様が、エキサイティングな作品です。

幼女殺人現場でその「匂い」を嗅いでしまった香西は、犯人に確信があるものの証拠をつかみきれず事件は時効に。そして当時大学生だった被疑者堂島が15年経ち、衆院選に立候補する。当時堂島の被害者だった里沙がそれを香西に告発することから彼の人生は大きく急カーブしてゆきます。地味な職場で事件性のない行方不明者を探すことで、定年前の地味な生活を送っていたはずの香西のまわりがにわかに死で包まれ、そして現れる謎の男、真崎。彼の勤めるビル内のハイテク処理場と香西の嗅ぐ「死」の関係。ひとつひとつ独立した点だったものが、事件と人間関係とでつながってゆくスリルは抜群です。

終わり部分は相当に賛否両論分かれるところでしょう。沢山の謎が集結し、解決してゆく後半部の快い盛り上がりと、あっと驚く結末。刑事小説でもこういう結びは珍しいのでは。独創的な作品です。


香西が現場で必ず嗅いでしまう「死」の匂いがここにも

真崎の周りで消えてゆく人間たち。そして15年前の被疑者堂島も消えようとしている

真犯人は真崎? それとも….
(C)福田和代/集英社