東日本大震災の「死の最前線」に臨んだ人々を描くルポ

更新日:2013/10/7

震災死

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : ダイヤモンド社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:吉田典史 価格:1,210円

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東日本大震災のあった日。わたしは横浜の自宅にいた。震源から遠く離れた横浜でさえ相当の揺れを感じ、向かいがわの中学校の屋上プールから、あおられた水が外へこぼれだして道路へなだれ落ちるのを目撃した。

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やがて、大地震の報道がテレビなどで流されるにつれ、出来事の大きさにようやく驚きはじめるのだが、それは、大洋に白く巨大な筋を引く津波の高さが何メートルであり、いくつの町が水に呑まれ、建物に何メートルの海水が浸水し、あるいは死者が何万人と、伝えられるのは数字ばかりだった。頼りなかった。亡くなった、あるいは波にさらわれた方々の顔はいっこうに見えてこなかった。

この地震での死亡者は約2万人だそうである。2万の人々のそれぞれの死の意味と形を、何らかの姿で具体化させることが本当にこの災害を知ることなのではないだろうか。東日本大震災の本当の顔は、がれきの山となってしまった市街の惨状を嘆くところにあるのではたぶんない。

マスメディアがなぜか伝えようとしなかった大災害の真の顔を描き出そうとするのが本書である。

あまたのインタビュー証言で構成されている。インタビュイーは、遺族、検屍医、消防団員、救助犬調教師、潜水士、などなど実際に現場で作業にあたった人々だ。いわば、メディアが鳥の目で事態を目にしようとしたのに対し、地にへばりついた虫のような目で著者は起こった出来事を記録しようとしているのだ。

また著者のいう「死の最前線」で活動した人々に取材することによって、災害の大きさは住民の危機管理の意識に左右されるという仮説を検証しようという目的も合わせ持っている。そのために、「津波に巻きこまれると、体はどうなるのか、なぜ死に至るのか。さらに遺体はどう変わっていくのか。」といった細部へ、具体性へと迫っていく。

このスタイルが読み手にもたらすものは、出来事のほとんど空間的な広がりである。

ある「広がり」の中に理不尽な氏に向き合う多くの人々がたたずみ、うずくまり、こごまりながら涙と怒りにもだえている。

たとえばこのページのここには、と例を引き合いに出す気持ちにはとうていならない。読むならすべてのページにつきあわねば意味のない1冊だ。

報道されなかった、またこれからもなされない東日本大震災の隠された顔に接していただきたい。