タイトルにぎくり、読んでみてさらにぎくりとさせられる、極上のエンタメ小説

小説・エッセイ

更新日:2012/1/20

京極夏彦 死ねばいいのに

ハード : iPhone 発売元 : Kodansha Ltd.
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:800円

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だってしかたないじゃん! ――そうおもったことのないひとなんて、いないとおもう。 自分でも、ほんとは、しょうがなくないことはわかっている。だけど自分を守るために、つい、正当な理由をつくりあげる。 このお話は、そんなわたしたちの、だれでももってる、それこそ「しょうがない」部分を徹底的に突いてきます。 この小説の、ストーリー自体はそうむずかしくありません。 亡くなったひとりの女性、「アサミ」のことを知りたいと、一人の男性・ケンヤが関係者をたずね歩く。語り手はその男性ではなく、彼に尋ねられたそれぞれのひと。 一人目、二人目、三人目――会社の同僚から家族、恋人など、語り手をとおして事件の概要が浮かび上がっていくというミステリー仕立ての連作短編。

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だけど事件そのものよりも、より鮮烈にうかびあがっていくのは、語る彼ら自身の物語。 いいわけ。不平不満。嫉妬。 自分たちの「不遇」な人生への怒り。 こんなはずじゃなかった。 だけどこうなってしまっている「今」はしかたがないこと。 自分はなにもわるくない――。 「しょうがない」を重ねて、自分を守っているひとたち。 わかりやすい物語を仕立て上げ、それを信じて、生きているひとたち。 そんな彼らに投げかけられる、ケンヤのことばはおそらく、一度でも「しょうがない」とおもったことのあるわたしたちを鋭く突きます。 読みながら、こわい。ひじょうに、おそろしい。だけどなぜか読み終わったあと、その恐怖をくるりと反転させたような、救いがあるのです。 死ねばいいのに。 その言葉がひとつの、希望であることに気がつきます。最後の最後で気づく、そのひっくりかえしを、ぜひ味わってみてください。 そしてiPhone版では、特典映像として全6話それぞれの予告映像(PV)がついているのもうれしいところ。 読むまえにみれば、必ずあおられます。 この小説、そもそも全体があられるような、追いたてられるような緊張感にあふれていますが、タッチするだけで読み進められるのがとてもうれしいです。しかも読みながら画面を動かせば目次にもどれる、いつでも文字検索もできる、というのはiPhoneならでは。 観て、読んで、検索しながら読み返して。 たぶん読んだあとは「だれかに話したい! 共有したい!」となるはずなので、そうしたら「感想を送る」項目で思いのたけを著者にぶつけるのも、いいかも。