地方に飛ばされ奮闘するビール営業マンを描いた青春小説。麦100%のコクと旨みあり

小説・エッセイ

公開日:2011/10/23

ビア・ボーイ

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : PHP研究所
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:吉村喜彦 価格:650円

※最新の価格はストアでご確認ください。

“プロフィール”フェチである。ヒトの経歴を知りたがる節がある。例えばレストランにて。このシェフはどこのレストランで修業し、誰の影響を強く受けているのか。果ては、なに県出身のなに型、学校はどこ? と興味は尽きない。購読本選びにおいてもしかり。ことにこの本は、著者の経歴とタイトルにビビッときた。

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著者は「サントリー宣伝部勤務を経て、作家に」と巻末の“著者紹介”にある。サントリー宣伝部といえば、彼の開高健、山口瞳を筆頭に妙手を輩出している、業界では知られた存在だ。同頁に記された1954年生まれと言う記述から推測するに、70年代後半入社、80年代のサントリーを良く知る人物と解く。まぁ、あくまでも憶測ですが。この“リアル”を認知して読むと、素で読むより断然面白いハズ(あら、ちょっとマニアック?)。

主人公の“おれ”は大学を卒業後、サントリー的な存在の大手飲料メーカー『スターライト』に入社。そして競争率3200倍という難関を勝ち抜きエリート部署、宣伝部に配属される。まさに、著者の経歴の如し、なのだと思われる。

さて、元来をお調子者と称する“おれ”の方は、憧れの部署に配属され意気揚々。しかし諸先輩が意外にも普通のサラリーマンタイプだったことに肩透かしを食らい、これならおれ、トップになれんじゃん? 的思考から好き勝手に仕事を邁進する。広告賞に輝いたりと順風満帆な仕事に調子付き、夜&女性関係の方でも素質を発揮。だがある日、お盛んな女遊びが凶と出て、転勤辞令を突きつけられる。左遷先は、全国随一の売上最下位を誇る地方支店の営業部。奈落の底へと突き落されたおれが、やってられっか辞めてやる、と言う本音と葛藤しながら、地方都市へと向かう新幹線の車中から物語は始まる。

業績を上げて返り咲いてやる、その下心から始まる地方修業。やんちゃなキャラクターの“おれ”が、田舎でヒトと触れ合いながら成長していく過程を描いた、いわゆる青春小説に属すモノだが、登場人物も各々味が合って、大手企業の善し悪しの描かれ方も、著者の実体験を含む舞台設定ゆえ、随所の記述にリアリティがある。ライバル会社のこれはキリンかな、とか、カギを握る新星ビールはもしやモルツ? と想像を膨らませたりするのも一興。(ちなみに麦100%の生ビール「モルツ」の発売は1986年なのです)ドラマ化しても絵になりそうなキャラ設定&ストーリー展開です。

一気飲みならぬ、一気読み(笑)できる、ビールのノド越しに似た、ほろ苦さとキレが爽快で、コクのある1冊。読後感もいいです。


この本購入の決め手となったプロフィール。これを読んで、著者のほかの本にも興味が沸いた次第

主人公が勤める『スターライト』は、当然サントリーに酷似(笑)ですね

ビールの味わいが、主人公の心情心理を上手く代弁していたりと、表現法もオツ

ちなみに、横書きでも縦書きでも、お好みで。バックの紙の色も、白、黒、クリーム、エンボス紙が選べたりします