気高い香気の漂いがたまらない、味わい深い幻想小説

小説・エッセイ

2011/6/28

聖女の島

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:皆川博子 価格:702円

※最新の価格はストアでご確認ください。

皆川博子という作家は、ミステリが書けて、歴史小説が書けて、幻想小説が書ける。全部が面白いというだけじゃなくて、まいったという気にさせられてしまうのだが、そこはかとない香気がただよっている。一番の魅力はその点にある。

そのたえなる香りは、ストーリーにあるわけじゃなし、登場人物が身につけているわけじゃなし、どうやら文章の流れみたいなもの、いわゆる文体ってのが醸し出しているらしい。読めば自然にこちらへ流れ込んでくる。あとはこれに酔いしれればいいだけなので、読者となった人はいかさま幸福である。

本作は、幻想小説タイプの逸品。

どことも知れぬ場所に、小さな島がある。もとは鋼屈でにぎわった土地らしいものの、いまはすっかりすたれて廃墟のひしめく孤島だ。だがなぜかここに、厚生施設が設けられ、31人の少女が数人の職員のもとに寝泊まりさせられている。このあたりから、吹きすさぶ風の音と打ち寄せる波のしぶきにからまりながら、にわかに妖しい風景となって読み手のイメージをかきたててくる。

それほど遠くない過去に、何かの惨事があって3人の少女が死に、施設は火に包まれたらしい。混乱に陥った島に、ひとりの修道女が訪れ、しかし28人となったはずの少女たちはどう数えてもやはり31人いる。むしろ事態はますます得体の知れないほうへジリジリと進んでいく。

もうひとつ皆川の素敵なところをあげれば、作品の練り込みの深さである。たとえば本作でいうなら、一つの物語を頭からしっぽまで考えて、で、そのまま書けば書けるところを、一度時間軸を崩し、過去が現在にしみ出てくるような構成をもたせる。出来事のダイナミズムがぐっと増すのである。

香気とダイナミズム、じっくりと味わっていただきたい。

文章は丹念に織り上げられている

島は寒々しい廃墟の孤島である

章が変わると、語り手も入れ替わり、ただの愚かな女に見えていた職員の内面に黒々としたものが渦巻く

なにやらまがまがしい詩が引用され妖しい雰囲気をいっそう盛りたてる (C)皆川博子/講談社