電子書籍が産み出した小説と挿絵の幸福な出会い!!
更新日:2012/3/2
生まれて初めての経験でした。読書を超えた読書体験というのでしょうか。
iPadの画面は、上に挿絵、下に巻物になった文章が配された形。縦に短いレイアウトは宮部みゆきのしゃきしゃきとした歯切れのいい文章によくあっています。
確かによく考えられている。挿絵が動くところも新しい。でも、文字を追っているときに、新しく画面が変わるたび、挿絵に触れたり、ゆすぶったりはちょっと面倒くさいなというのが読みはじめたときの僕の正直な感想でした。
ですが、おどろおどろしく始まった幽霊話に飲み込まれ、挿絵の動かし方もマスターした頃、心憎いではありませんか、暗獣との驚きの出会いが用意されていたのです。
得体の知れない「いきもの」にわが目を疑い、どきどきする登場人物たちと同じ気持ちになってしまう。暗獣のとぼけた愛らしさ、とらえどころのないやわやわとした触感さえもリアルに感じてしまいます。そのかわいらしさが100パーセント味わえるのです。
アニメーションでもなく、イラストでもない、こちらの動作に応じてかすかに動いてくれる、その奥ゆかしさが、実に暗獣らしい。物語が進むにつれ、小さな暗獣の命のはかなさが僕の胸に迫ってきました。子どもの頃飼っていた猫が病気で日に日に衰えていったときの悲しみがよみがえってきました。
文章と絵がこんなに調和して、胸にストンと響いたのは初めてです。電子書籍が産み出した文章と挿絵の幸福な出会いと言えるのではないでしょうか。電子書籍の可能性に満ちた未来までも予感させてくれる一冊です。
暗獣には仕掛けがたくさん。仕掛けを100%楽しむための説明書付き
画面上には挿絵。下には文章。挿絵には全て仕掛けが。この挿絵は傾けると、登場人物が歩き出します