「私、余命ゼロなんだ」――「死」が「生きる」こと教えてくれる最高のラブストーリー『君は月夜に光り輝く』

文芸・カルチャー

2017/8/22

『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜/KADOKAWA)

 この小説は「死」があふれている。主人公の卓也は、好きな人も、肉親も亡くして、自分自身の「死」にも、常に近い場所にいる。よく「恋人が不治の病」という物語は見かけるが、本作は恋人だけではなく、様々な「死」が、主人公を取り巻いている。

『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜/KADOKAWA)は、第23回電撃小説大賞の大賞を受賞し、「選考に関わったすべての人の心をしめつけた」「圧倒的感動作」として続々重版している話題作だ。

 高校生の卓也は、「発光病」で入院しているクラスメイトの「渡良瀬まみず」のお見舞いに行くことに。長く入院生活を送っているまみずのことを、卓也はよく知らない。クラスの代表として渋々お見舞いに行ったのだが、それが、「姉の不可解な死」から、どこか投げやりに生きていた卓也の人生を、大きく変える出会いとなることを、彼は知らなかった。

「発光病」とは、原因不明で治療法も確立されていない不治の病。若くして発症し、大人になる前に亡くなるケースが多いという難病だった。病名の由来は、月の光を浴びると体が淡く光ることから来ている。死期が近づくと、その光は強くなった。

 一度きりのお見舞いで終わる……と思いきや、卓也はまみずの大切にしていたスノードームを割ってしまう。大事にしていた物を壊してしまった代わりに、卓也はまみずができない「死ぬまでにやりたいこと」を実際に行い、それをまみずに報告することになる。

 卓也は一人で遊園地に行ったり、メイド喫茶でバイトをしたり、学校行事の演劇でジュリエット役をやったりと、割と散々な目に遭いながらも、まみずの「やりたいこと」を実行していく。

 月日が経つにつれ、卓也はまみずに惹かれていくが、彼女の余命は既に「ゼロ」。いつ亡くなってもおかしくない状況なのだ。近い将来、必ずおとずれるまみずの「死」に葛藤する卓也。いよいよ彼女の死期が近づくある日、まみずは「死んだらどうなるのか知りたい」と口にする。それを受けて、卓也は、ある決断をする。

 本作は、よくある「恋人が難病の泣ける小説」ではなかった。もちろん、その要素も含まれているのだが、それよりもっと深い「死」の物語だった。主人公の卓也は、肉親を亡くしている。その「死」について、彼はずっと「思うこと」があったのだ。そして、「発光病」のまみずと出会う。

「死んだ姉」と「死について敏感になっている卓也」と、「不治の病のまみず」……3人が交わり、この物語は「恋人が死んで悲しい」という枠では収まり切らない、深い「生」と「死」の話になっている。

 読み口は純文学ではないので、展開や文体、口調などはライトな部分もある。そのため万人受けする読みやすさでありながら、内容の「深さ」は他のライト文芸とは一線を画しているのではないだろうか。

「死」にあふれた物語だけど、ただ悲しいだけじゃない。ただ「死」を書いているわけではない。この小説を読むと、どうしてか、とっても「生きたくなる」。生きたくて仕方がなくて、涙が出る。たくさんの人に希望を与える、珠玉の一冊だ。

文=雨野裾