Twitterフォロワー数15万人超! 妄想ツイートが話題の“さえりさん”による、太らない糖分補給エッセイ!

恋愛・結婚

更新日:2017/9/4

夏生さえり/クラーケン)

 食と恋にまつわるエッセイ集『口説き文句は決めている』(夏生さえり/クラーケン)が刊行された。Webマガジン「アマノ食堂」の人気連載、「ティファニーで朝食を食べられなかった私たち」を加筆修正し、書き下ろしを加えての書籍化だ。

 著者のさえりさんは、妄想ツイートが話題の気鋭のライター。Twitterのフォロワー数は日々増え続けており、ついに15万人を突破したという。もちろん本書にも、著者がいつか体験したい食と恋の妄想シチュエーションがこれでもかとばかりに詰まっている。個人的にお気に入りの妄想エピソードを少しだけ挙げてみよう。

・「ずっと好きでいてほしいから」という理由で、彼氏が慣れないおしゃれレストランに連れていってくれる(「おしゃれなお店がうれしい」)
・疲れ切って自宅マンションに帰り着いたらお腹を空かせた年下彼氏がドアの前で待っていたので、オムライスを振る舞ってあげる(「彼に振る舞うオムライス」)
・同棲中の彼氏と喧嘩をしたまま仕事に行き、帰宅して冷蔵庫を開けたら、自分が大好きなプリンを発見する(「仲直りのきっかけプリン」)
・行きつけのカフェで気になる店員と徐々に距離を縮め、彼から連絡先を渡される(「秋に似合う恋」)

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 こういった、恋に憧れたことがある人なら一度は想像したことがある甘い妄想が最大の特徴である本書だが、時折登場する著者の実体験はまた違った印象を与えてくれる。甘いだけでなく不思議な色気があって、読者の恋愛スイッチをONにする。例えば表題作にもなっている、「口説き文句は決めている」。著者はもし男になったら好きな女性を口説く言葉を決めていて、それは「きみは他とはぜんぜん違う」というもの。著者が24歳のころ、実際にかけられた言葉だという。

「みんな同じなんですよ、きっと」と努めて冷静に、それを悲しく思っていないように伝え、酔っ払って進まなくなったモヒートに浮かぶミントを指で弄んだ時、彼が目を丸く開いて心底驚いているという口調でこう言ったのだった。「ぜんぜんちがう。きみは他とはぜんぜんちがう」わかってないな、という顔つきだった。

 残念ながら言ってくれた相手は恋人や好きな人ではなく、偶然電車で友達になった既婚者の男性だったというが、著者は今でも事あるごとにこの言葉をお守りのように思い出すそうだ。

 同じく著者の実体験である、「元恋人を匂わせる飲み物」も心にしんみりとした余韻を残す。

 著者が過去に付き合っていた男性は、昔の彼女の影響でいつもチャイティーを注文する人だった。著者はやがて彼と別れるが、その後人づてに、彼が最近チャイティーの代わりにアールグレイを頼むようになったことを聞く。アールグレイは、著者がいつもオーダーしていたものだった……というエピソードだ。

「おいしいの?」と聞かれると「ひみつ」と答えた。無理に一口あげて「おいしいでしょう?」というよりも、なにか印象に残る気がした。「チャイなんて甘ったるいよ。どんな気分の時でも飲めるのはアールグレイだよ」などと言い、なにか特別なもののように見せた。

 瞼の裏にリアルな情景が浮かんでくるような著者の文章を読んでいると、自分の甘酸っぱくて切ない記憶が呼び起こされるような気がする。

 本書のまえがきで著者は、「だいぶ甘い書籍になっているかもしれないけれど、太らない糖分補給だと思って、最後まで楽しんでもらえるととても嬉しい」と語っている。恋をしていない人も、本書で恋(糖分)不足を補いながら秋の夜長を味わいたいものだ。いつか訪れる、とびっきりの恋を夢見ながら。

文=佐藤結衣