緊張高まるアジア情勢―希望を見出すキーポイントを知の巨人に学ぶ

社会

2017/9/25

『アジア辺境論(集英社新書)』(内田樹、姜尚中/集英社)

 北朝鮮のミサイル、中国で開催されたBRICs会議、トランプ政権の予測し難い行動…日々変わりゆく国際情勢を前に、日本の立ち位置を憂慮している方も多いのではないでしょうか。『アジア辺境論(集英社新書)』(内田樹、姜尚中/集英社)は内田樹・姜尚中両氏の対談形式で、気になる日本のこれからの行方を考えさせてくれる一冊です。

 北朝鮮のミサイル発射によって発令されたJアラートは、多くの人々を不安に陥れました。数分与えられた猶予時間に適切な場所に逃げることができた人もいれば、途方に暮れてどうにもできなかった人もいたと、テレビのニュースでは繰り返し特集されていたのをご覧になった方も多いかと思います。

 北朝鮮のミサイルと、もしもの場合の防衛策は日本人にとって大きな懸念材料のひとつです。それに加えて、拉致被害者問題など過去の事柄から、多くの日本人にとって北朝鮮を好きになる理由を見つけるのは難しいことだと思います。それは、見方を変えてみると、良くない印象がある北朝鮮に関することは簡単にニュースになりやすいということにもなります。

 簡単に、手間なく、迅速に、スマートに…本来、市場で流通する商品・サービスのためにあるはずのイメージが、政治や個人の考え方にまで侵食していることを危惧して、内田氏は現在の日本が抱える課題をこのように分析します。

「難しいことを考えることを厭わない」という意欲をどうやって保持するか。もっと踏み込んでいえば、「難しいことを考えることをむしろ好む」ような傾向をどうやって創り出すか。それが民主制を守るための思想的な急務ではないか。

 近代的自我を描いた夏目漱石を敬愛し、『悩む力』という著作を持つ姜氏も、この意見に同調します。たしかに、国と国の間の問題が、何千万人・何億人の間の問題が、スッと解決することはそうそうないはずです。安倍首相も意地悪な質問に悩むことはあっても、「難しい問題なので、よく考えないと答えが出せません。結果が出るのをゆっくり見守っていてください」と、問題の難しさに悩んでいる心情を語ることはしないでしょう。

 「難しい」ことを避ける傾向を、「グローバル人材」という言葉を例に挙げて別の切り口から両氏は説明します。グローバル人材とは誰なのか。英語力がある人、フットワークが軽くコミュニケーション力がある人、長期間海外勤務でも都合をつけられる柔軟な人。それもあるが、実は今所属している社会からひょいと抜けても困らない人なのかもしれない。難しいことを要求しているように見せかけて、個人を孤独にさせていく負のスパイラルを生み出しているのではないか。そう厳しく指摘した上で、両氏は日本・韓国・台湾といった「ニッチな辺境国家」同士の連携が、今後のアジア情勢の鍵を握ると説きます。

 誰かを、とくに具体的な固有名詞で人を知ってしまうと、いくら国同士が仲が悪くてもそういう気持ちや先入観はなくなっていきますからね。相手が匿名のままだと確執はなかなかなくならない。(姜氏の発言)

 政治問題だけでなく、「何が本当のコミュニケーション・知性なのか」という個々人が持つべき大切な姿勢についても言及していて、簡単なことをしても仕方がない、難しいことにトライしようと思わせてくれる一冊です。

文=神保慶政