病気とぼちぼちつきあって笑って暮らせれば言うことなし! ボケとツッコミで学ぶ病気のしくみ

ライフスタイル

2017/10/17

『こわいもの知らずの病理学講義』(仲野徹/晶文社)

 病院で医者の診察を受け、よく分からないままに処方された薬を使ったり治療を受けたりしているという人は少なくないだろう。何か説明されても、つい「お任せします」などと答えてしまう人もいるかもしれない。しかし医療従事者の中には、「患者が医療チームのリーダーです」と唱える者もいる。医者の提示する治療法に対して、それを実施するかどうかの決断をするのは、やはり患者自身か家族などだから、その考え方は道理にかなっていると思える。とはいえ基本的な知識を持たなければ決断するのに困るし、さりとて専門職になる訳でもないのに何をどう勉強すれば良いものか。そこで見つけたのが、この『こわいもの知らずの病理学講義』(仲野徹/晶文社)である。医学部の教授を務める著者は人から病気について尋ねられることがよくあるそうで、新聞や週刊誌に載る病気の記事を読むと「何を書いているんだか」と思うことがあり、普通の人にも正しい病気の知識を身につけられる「誰かそんな本を書いてくれるかなぁ」と思っていたところ、自分が書くことになったという。

 タイトルの「こわいもの知らず」というのは、著者曰く「態度は大きい」けれど病理学について書くのは「おそれおおい」という気持ちを込めたものだそうだ。そんな著者の大学での講義はその時間の三分の一ほどが雑談になるらしく、講義のアンケートに「雑談は時間の無駄ですからやめてください」との注文があることについて「理解不能なことを言う子もいます」といなしている。本書の内容も同様で、しょうもない雑談によって脱線につぐ脱線をしているのだけれど、おかげで読み飽きることが無いし、その雑談と本論がセットになって頭の中に入ってくるから、あとで思い出すのに役に立つだろう。

 そもそも「病理学」というのはギリシャ語の語源から直訳すると「苦難学」となり、実際に扱う内容からすれば「病気学」というところを、江戸時代後期の武士であり医師でもあった緒方洪庵が「理」(ことわり=道理とか道筋)を挟み込み、外国の医学書を『病理学通論』と翻訳したのが始まりだそうだ。(本書では『病理学通論』とされているが、一般的には『病學通論』)

 本書では、細胞とは何か、組織とは何か、臓器とは何かといったことや、血液と血行に関する基礎知識などを分かり易く解説している。もちろん挟まれる雑談も面白く、アレルギー反応の1つであるアナフィラキシーショックの研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞したロベール・リシェは心霊現象の研究でも有名だったとか、感染症を自分の体で実験していた「近代外科学の開祖」とも呼ばれる18世紀の天才外科医ジョン・ハンターは、解剖用の遺体を得るために墓場荒らしをするマッドサイエンティストというような話は医療の歴史に触れる機会ともなろう。

 そして、本書を読んでの最大の収穫は「がん」について詳しく学べたことだ。がんに関する本というと、読者のニーズもあってか予防や治療に多くのページが割かれており、肝心のがんそのものについては少し触れる程度だったりするが、本書では実に半分ほどを占めている。それは、がんの発生と成長のメカニズムがそれこそ病理学の基礎に関係することだからだ。数多の本やネットでの記事に「発がん性のある食べ物」などが載っていたりするが、本書によれば発がん性を指摘されていない食べ物でも、体内で発がん性のある物質に変化することがあるという。また、がんは多様性に富んでいるため「がんは治る」とか「がんは怖くない」というのは誤りであり、「治るがんがある」や「怖くないがんもある」に留めておくべきと述べ、「がんもどき」なるものは「理論の名に値しない空論あるいは暴論」であるし、特定の食事や生活習慣を改めるなどということも「トンデモ説」と警鐘を鳴らしている。一つ一つの細胞が体の組織を作っているそうだから、自分の体のチームリーダーとしては勉強を重ねて責任を持ちたいところである。

文=清水銀嶺