東京・湾岸「化け狐」伝説の舞台を巡ってみた!『怪談現場 東海道中』

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2017/10/17

『怪談現場 東海道中』(吉田悠軌/イカロス出版)

 今から4年前の出来事だ。次第にあたりが暗くなり始める逢魔が時。神奈川県某所の海から程近い公園を散策していると、不思議なことが起こった。公園内の薄暗いトンネルから、明らかに軍服を着ている男性が、前から姿勢よく、行進してくるのだ。

 その時は「旧日本兵のコスプレをしているおかしな人」と思ったくらいで、通り過ぎたのだが、どうも連れの様子がおかしい。うわ言のように「あの人はヤバイ」と繰り返しガタガタと震えていたのだ。

 よくよく公園を調べてみると、どうも地元では有名な心霊スポット。しかも、その公園は太平洋戦争の時に軍の施設として利用されていたという。目撃した男性は何らかの理由で成仏できずに彷徨う兵の霊だったのかもしれない…。

 私は霊感があるタイプではない。しかし、そんな人間でも、霊が集まる心霊スポットに足を踏み入れれば、彼らに出くわす可能性があるということだろう。

 そんな心霊スポットを東京から西へ、東海道を辿って大阪まで紹介しているのが『怪談現場 東海道中』(吉田悠軌/イカロス出版)だ。本書は全12か所の怪談現場を収録。どれも丁寧に取材が行われ、なぜその場所が心霊スポットになったのか考察されている。

 今回は本書に記載されている第1章「幕末の狐憑き」の舞台を実際に訪れてみた。

■佃島 「於咲稲荷神社」

 稲荷神社は日本の至るところに存在するポピュラーな神社の一つ。祀られているのは“狐”。稲荷神社では、商売繁盛を祈願する神様として“狐”が祀られているというのも有名な話だろう。

 そして、狐は「化け狐」など怪異として語られることも多い動物でもある。佃島に祀られているお稲荷様は、1858年の幕末に現れた「化け狐」だそう。

 佃島に狐に憑りつかれ、叫び暴れまわっている漁師がいた。そこへ1人の女性霊能力者が流れつき、お祓いをすると、なんと漁師の体内から1匹の狐が飛び出したという。住民たちは、すぐにその狐を取り囲み、打ち殺す。「化け狐」の死体を見て我に返った住民たち。急に恐ろしくなった住民たちが、死体の処理について霊能力者に相談すると、

「灰になるまで燃やし尽くし、地中に埋めなさい。その上に社を建てるのです」と助言した。

 それがこの「於咲稲荷神社」。神社そのものは1m四方ほどの小さなもの。敷地も広くない。周囲はビルに囲まれながらも、昔ながらの下町の雰囲気を残している佃島の風景に馴染んでいるようにも見える。

 今回、訪れた時間帯は昼間だったこともあり、特別怖さは感じなかった。しかし、この「化け狐」譚を読んだ後、夜にこの地を訪れ、「この下に化け狐が埋まっている」ことを思い出せば、何とも言えない恐怖に襲われるに違いない。

 余談だが「於咲稲荷神社」の“於咲”という名は、件の女性霊能力者の名前であるとのことだ。

■大崎 「山王熊野神社」

 佃島の「化け狐」から3年後。今度は品川の南に位置する大崎で「化け狐」が現れた。詳細な記録は残っていないそうだが、JR大崎駅から程近い山王熊野神社の丘の上に、狐が封印されている「狐碑」があるというので、こちらも実際に行ってみた。

 山王熊野神社から中に入ると、丘の上へ続く階段が。うっそうと茂った木々のせいもあって、昼間であるはずなのに、日暮れのような暗さを感じさせる。霊的な気配であるかはわからないが、何か底知れぬ不気味な雰囲気だ。夜には決して訪れたくない場所である。

狐の像が建てられており、狐が祀られていることがわかる。

丘の上に到着すると狐について書かれた立札を発見。

この狐、人に害をなすこと久し
民みな、これを憎む
今ここに文久元年・辛酉(かのととり)
御嶽・靭矢市正、埋めふせぐ
万世、掘ることなかれ

 つまり、御嶽山の靭矢市正という人が、人々に悪さをしていた「化け狐」を封じ込めた。その立札の下に埋めてあるため、掘り起こしてはいけないということ。

 上記二つの「化け狐」伝説は、幕末期にヨーロッパからやってきた流行り病「コレラ」の恐怖から生じたのではないか、と著者は考察している。確かに細菌やウイルスの類は目には見えない。妖怪の仕業と考えられた、とすれば辻褄があう。

 そのように考えてみれば、心霊スポット巡りというよりも、江戸時代の病を巡る“歴史探訪”という見方も可能だ。

 本稿では東京の怪談現場を紹介したが、他に神奈川・静岡・愛知・滋賀・京都・大阪のスポットも本書では紹介している。読了後、近所のスポットに行ってみるもよし、旅行のちょっとしたスパイスで訪れてみるのも楽しいかもしれない。もちろん「霊に取り憑かれた!」ということになっても、責任は取れないので、あしからず。

文=冴島友貴