コーヒーの消費量は全世界で1日約25億杯!? 日本人はいつから飲んでいた?

食・料理

公開日:2017/10/21

『珈琲の世界史(講談社現代新書)』(旦部幸博/講談社)

 1日約25億杯。これは全世界で人間が飲んでいるコーヒーの消費量です。コンビニや駅の売店、自動販売機、どこでも気軽に購入できるコーヒーですが、いつ頃から私たちはコーヒーを飲むようになったのでしょうか。

『珈琲の世界史(講談社現代新書)』(旦部幸博/講談社)によれば、人類の歴史が始まる以前の先史時代からコーヒーは人類の祖先と共にあり、イギリスやフランス、アメリカなどの国家の発展や歴史を変えた重大事件にも密接に関わっていたといいます。

 本書で語られる、人類を魅了し続けてきたコーヒーの「物語」を少しだけ味わってみましょう。

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■コーヒーを布教したイスラム教徒たち

 コーヒーノキ(アカネ科の植物)の起源は約1440万年前の中央アフリカのカメルーン付近に遡ります。5000年前からエチオピア人が食用にしていたとされますが、飲み物としてのコーヒーは、15世紀のイエメンにアリー・イブン・ウマル・アッ=シャーズィリーというイスラム神秘主義者が伝えたカート(アラビアチャノキ)のお茶「カフワ(qahwah)」が原型だそうです。

 カフワはイエメン各地に広まりますが、山中で栽培するカートの葉は入手が困難でした。そこで港町アデンに住んでいたイスラム法学者ザブハーニーがコーヒーノキの種子で作ったカフワ、つまり「コーヒー」を発明したといいます。

 いわれてみればイスラム教の国々では、アラビアコーヒー、トルココーヒーが有名ですね。

■市民革命はコーヒーハウスから

 イギリスといえば「紅茶の国」ですが、実は17世紀は「コーヒーの国」でした。ロンドンにはコーヒーハウスが3000軒もあり、市民はコーヒーを片手に政治談議に没頭し、やがて清教徒革命が起こり、王政復古の時代でも勢力は衰えず、名誉革命を経て近代的市民社会の礎になったのだといいます。

 政治家もコーヒーハウスで集会を開き、株式取引所の近くにあった「ギャラウェイ」「ジョナサンズ」は仲買人たちの商談の場となり、現代の保険取引所「ロイズ」も元は貿易商や船員が集まる店だったのが始まりといわれています。新聞社の記者たちもコーヒーハウスで取材を行い、「ウィルズ」は文豪が集まっていたとか。

 まさかコーヒーハウスが大英帝国の政治、経済、流行の発信地になっていたというのは驚きです。

■コーヒーの春を迎えた日本人

 日本ではどうだったのでしょうか。もっとも古くは、江戸時代の文化人である大田南畝(蜀山人)がコーヒーを飲んだ記録を残していますが、「焦げ臭くて飲むに堪えない」と酷評しています。明治時代になると輸入が始まりますが、もっぱら外国人向けの飲み物であり、日本人はほとんど飲まなかったといいます。

 日本人にコーヒー文化を芽吹かせたのは、北原白秋、木下杢太郎、石井柏亭、山本鼎ら、明治末期の文化人たちでした。「日本にカフェ情緒というものを興してみよう」と音頭をとって、1911年、銀座に「カフェー・プランタン」を開店し、芸術家や著名人のサロンとして賑わったそうです。

 さまざまな時代の動乱を乗り越えてコーヒーが愛され、現代の私たちのもとまで受け継がれてきたことを知ると、いつも飲んでいる缶コーヒーの味わいもひと味違ってきそうです。

文=愛咲優詩