吸血種と人間が共存するトーキョーに異変あり!? 不器用でまっすぐなヒロインがクソな奴らに飛び蹴りをぶちかます!

マンガ

更新日:2017/12/25

『禁猟六区』(森橋ビンゴ:作、秋重学:画/小学館クリエイティブ)

 ヴァンパイアやゾンビものといえば、異世界や終末世界をイメージする方が多いかもしれない。しかし、近年は漫画『東京喰種トーキョーグール』のように“異人種”が“人間”と共存する物語も増えてきた。今回紹介する漫画『禁猟六区』(森橋ビンゴ:作、秋重学:画/小学館クリエイティブ)も、そうしたニューウェーブ作品のひとつだ。

『禁猟六区』の舞台は、トーキョーの下北沢。人間に似た“何か”である吸血種(ヴァンプ)は、今や人間と変わらない生活を送っていた。かつては弾圧を恐れ、本性を隠していたものの、“彼ら”が市民権を得てから既に5年。見た目の違いは八重歯が牙化しているかどうかだけ。居住区は都内の指定六区に限定、公共の場での吸血禁止、同意なき吸血行為の禁止といった規則こそあれ、電車で隣りに座っている男女が、実は吸血種かもしれない…という世界だ。

 主人公でネクラな高校生の桜井太陽は、吸血種である年上の美女、三条真琴と交際していた。ある時太陽は、ひょんなことからショートカットが似合う吸血種の少女・望月天音と出会う。ロックをこよなく愛し、バンド活動に明け暮れる天音は、吸血種を監視する監査官の手助けもしていた。いわゆる警察のイヌだ。自分の美学に反するならば、たとえ同族でも容赦はしない。吸血をせず、伸びてきた牙を自らへし折る彼女の姿からは、人が生きていく上で、絶対に曲げてはならないまっすぐな想いが伝わってくる。女のコらしい可愛さも兼ね備えた天音は、実に爽快で、とても気持ちのいいヒロインなのだ。

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 彼女が、親から吸血虐待を受けていた少女に語りかけた言葉がある。

「人間だろうと吸血種だろうと、いい奴もいりゃクソもいる。自分の目で、見極めな。アンタの声が届く奴だっている。堂々と声出しな」

 それは、屈折した現代社会にも向けられた言葉だと言えるだろう。「あたしだって偽善者は嫌いだよ。でも、何もしない奴よりゃマシさ」と言って飛び蹴りをぶちかます天音に、誰しも日常のストレスや不安、鬱積した想いを託すはずだ。

 痛烈な社会風刺という言葉で片づけるのは簡単だろう。しかし、天音に大それた信条などない。見て見ぬフリができない不器用さに自問自答しつつ、気持ちよく、自らの美学・正義を信じて生きたいだけ。応援などされても嫌がりそうな天音だが、だからこそ愛おしさも芽生えてしまう。

 物語は天音と太陽の想い、謎めいた真琴の思惑が絡み合いながら、吸血種に蔓延する新種ドラッグ“アムリタ”がカギとなっていく。哀しい性を超え、吸血種と人間が本当に共存できる社会は生まれるのか。荒れに荒れそうな行く末を、天音や太陽たちとともに追いかけよう。

文=藤井淳