登場人物全員クズすぎる…! 妻子持ちなのにピュアな男と、恋を知らなかった肉食女子。運命の出会いのゆくえは?

マンガ

更新日:2018/1/5

『バツコイ』(月子/講談社)

 知らないうちに不倫させられていることほど面倒なことはない。目先の欲望につられて考えなしに行動する男のせいで、迷惑をこうむるのはいつも女だ、と言いたいところだが、『バツコイ』(月子/講談社)の主人公・美留町カホリの場合はややちがう。欲望おもむくまま行動しているのはむしろ、最初に騙されたはずの彼女のほうだからだ。

 帯に「登場人物ほぼ全員クズ」と煽りが躍るとおり、本作の登場人物は基本的に誰にも同情はできない。28歳の弁護士・カホリは、「仕事が順調なら男なんていらない」「ピュアでロマンチックがぐちゃぐちゃドロドロになるなら浅いところだけすくい取って楽しめたほうがいい」と公言するサバサバ系の肉食女子だ。ある日、予約困難のフレンチを友人にドタキャンされ、同じくドタキャンされて途方に暮れていたメガネ男子・砂後谷を道で逆ナン。一晩をともにしてあまりの気持ちよさに寝坊、遅刻までしてしまうのだが、その翌日、彼はカホリの前に思いもよらぬ形であらわれる。妻との離婚を望む依頼人として。

(C)月子/講談社

(C)月子/講談社

 弁護士が、既婚者と一晩の過ち。しかも4歳の子持ち。最悪だ。さらにさっそく、妻にバレてしまったという。離婚を望まない妻が、砂後谷の有責を虎視眈々と狙っていると知りながらカホリの誘いにのったというのだから、考えなしにもほどがある。キレるカホリに、「だって楽しかったんだもん!!」と開き直る砂後谷もなかなかのクズっぷり。だがそんなクズに、美留町は生まれて初めて恋をしてしまうことになる。

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(C)月子/講談社

 全然スマートじゃないしダサくてやぼったい、安月給なのに慰謝料と養育費を背負いながらカホリを幸せにしたいと必死。そんなおばかな純真さをカワイイと感じてしまうカホリ。気づけば落ちていたその恋は、どれだけの男とつきあおうとセックスしようとまるで心を動かされなかった彼女にとっては、初めての恋だった。初恋、だけどピュアじゃない。だからこその「バツコイ」である。

 不倫の噂のせいで教師の砂後谷が離島に転勤になろうが、カホリが不慮の妊娠にショックを受けようが、自業自得だ。それなのになぜか二人を憎めないのは、どちらにも嘘がないからだ。幸せになるために、なりふりかまわず突っ走る。そのためには誰を傷つけてもいい、とまでは思わないが、できる限りの筋は通して自分を貫こうとする。なにもかも自己責任なその生き方は潔くてすがすがしいし、そんな彼女が初恋に戸惑って感情を揺らしまくる姿はひどくかわいいのである。

 自己中心的、というのはたいてネガティブな意味でつかわれるが、一度きりの人生、自己中に自分が楽しくて幸せだと思える道を選んで歩んでいったほうが絶対にいい。とはいえ、他者と関わりながら自分らしくあり続けるのはそう簡単ではない。バツコイを通じてカホリはどこまで自己中を貫けるのか。妊娠騒動の顛末もふくめて、3巻も期待大である。

文=立花もも