【年末年始にじっくり読みたい】天狗たちの愛憎と純情少女の切ない戦いを描く――大人気! 明治人情妖怪譚シリーズ最新刊『一鬼夜行』

文芸・カルチャー

2017/12/12

『一鬼夜行 鬼姫と流れる星々』(小松エメル/ポプラ社)

 小松エメルの妖怪小説シリーズ『一鬼夜行』にファン待望の最新刊『鬼姫と流れる星々』が刊行。本作が第9弾となる『一鬼夜行』は累計発行部数30万部を突破する人気シリーズだ。

 すべての物語の発端は、江戸幕府が瓦解して5年ほど経った、ある夏の晩。“百鬼夜行”からはぐれた小春という名の鬼が、道中の夜空から落ちてしまう。ものすごい音を立てて小春が尻餅をついたのは、浅草の小道具屋「荻の屋」の庭先だった。主人の喜蔵は妖怪たちも怖がるほど強面の閻魔顔で誰にでも無愛想な人間嫌い。一方の小春はすすき色に黒と赤茶が混じった長い髪を肩まで伸ばしたかわいらしい少年ながら、自らを“大妖怪”と称する傍若無人の大飯食らい。互いに文句を言い合いながらも共同生活をするようになったふたりは次々と妖怪沙汰に巻き込まれ、やがて遠い過去からつながる自分たちの因縁を知ることになる。

 小春と喜蔵の凸凹コンビはしょっちゅうケンカをしながらも、人間と妖怪という種を超えて互いを信じ合う強い絆を育んでいく。そんな“バディもの”の王道を行くふたりの関係性の変化と成長が本シリーズの大きな読みどころ。

 もともと生きる地が異なる人間と妖怪という種の違いが生み出す、どうすることもできない思いのすれ違いもまた多くの読者の胸を打つポイントだ。そして、数多く登場する個性的なキャラクターたちも魅力のひとつ。牛鍋屋の看板娘で喜蔵の生き別れの妹だった深雪、荻の屋に集う付喪神や馴染みの妖怪たち、喜蔵の幼馴染で色魔呼ばわりされている彦次、裏長屋に住む美貌の未亡人・綾子、荻の屋の裏にある山に棲む天狗たちの首領で小春のライバル・花信、河童の女棟梁・弥々子、事あるごとに喜蔵にちょっかいを出してくる強大な力を持った妖怪・百目鬼――。巻を重ねるごとに、それぞれの人物や妖怪にまつわる過去や因縁が明かされ、その運命をドラマチックに描くことで『一鬼夜行』シリーズは世界観を大きく広げてきた。多くのファンが「泣ける」と本シリーズを評するのも、そこに人間も妖怪も変わらない美しくも悲しい“情”が丹念に描かれているからだろう。

 そんな妖怪人情絵巻シリーズ最新刊のキーとなるキャラクターは深雪と天狗の花信だ。荻の屋で小春が「妖怪相談処」なるものを開いて、ふた月ほど経った頃。頻繁に家を空けるようになった深雪が恋をしているらしいと聞いて気が気でない喜蔵が小春と探りを入れてみると、なんと深雪は人間離れした怪力を発揮して、あちこちで人助けをしている様子。以前、深雪は“鷲神社”の鷲から特別な力を授けられたことがあり、どうやら怪力はそれに由来するらしい。さらに深雪は小春の宿敵である天狗の花信と、ある“契約”を交わしていて、喜蔵と小春ともども天下一の天狗を決める争いへ巻き込まれてしまう――。

 前作『鬼の福招き』から始まった第2部の第2作となる本作で描かれるのは天狗たちの生き死にをかけた壮絶な愛と復讐のドラマ。過去と現在を交錯しながら、複雑に絡み合う情のもつれが生じた真相が、妖怪譚ならではの激しいアクションを織り込みながら少しずつ解き明かされていく。その天狗たちの愛憎は、普遍的な“家族”という関係のあり方を問うものでもあり、シリーズに共通する「他者と関係を深め、共に生きるとはどういうことなのか」というテーマにつながっている。もちろん、今回も思わず笑わってしまう喜蔵と小春の丁々発止のやりとり、荻の屋に集う付喪神や妖怪たちのドタバタ劇は健在。この本シリーズの醍醐味は本書から読み始めても十分に味わえる。そのうえで第1作から順に読んでいけば、この壮大な物語にどのような伏線が張られてきたのか、その緻密な構成もより楽しめるはずだ。

 次回作は2018年刊行予定で、第2部完結編になるとのこと。きっと多くの読者の期待を裏切らない大団円が待っているだろう。

文=橋富政彦