給料が0円でも社員が辞めない会社とは?――『天国に一番近い会社につとめていた話』

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更新日:2018/1/15

天国に一番近い会社に勤めていた話

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
『天国に一番近い会社に勤めていた話』(ハルオサン/KADOKAWA)

 著者ハルオサンのクソ人生を、シュールなイラストと共に描くブログ(「警察官クビになってからブログ」)が、『天国に一番近い会社に勤めていた話』(KADOKAWA)としてついに書籍化! 給与5万円、元犯罪者だらけ、厳しいノルマに圧倒的な激務……、そんなブラック企業に勤め続けていた理由とは――。

 社長は目を輝かせながら言いました。
「就職や将来に悩んでいる人を救いたい!」
 この言葉は就職難民だった私の心に深く突き刺さりました。この会社の採用率は『100%』社長は学歴、経歴、犯罪歴を問わず。どこのどんな人間でも必ず採用してしまったのです…

 私が勤めていたブラック企業の話を人にすると、「なぜそんな劣悪な環境で何年も働き続けたの?」とよく聞かれます。

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 なにせその会社の平均給与は『5万程度』。
 1日『14時間』にも及ぶ『飛び込み営業』、そして休みもほとんどない。
 そもそも正社員採用ではなく、社員全員が『個人事業主』として採用されており、給与は『完全歩合制度』こんな保証も何も与えてもらえない職場だったのです。

 もちろん、大多数の人達はこんなクソ会社に入社しません。
 仮に入社したとしても数日のうちに確実に辞めていきます。

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 しかし…、こんな奴隷のような待遇の会社に何年も勤めてしまうような哀れで愚かな人間がいるのです。
 そう……私です。

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 ちなみに、3年ほど勤めました。

 確かにこの会社は、『奴隷のような待遇』なのですが、代わりに社長や上司や同僚たちが異常な程に親切で優しいのです。

 なぜなら徹底して、思想が統一されているからです。
 この会社で「今日は雨ですね」という不用意な言葉を発すると、「ちょっと来て」と呼び出されて、「なぜみんなを不快にさせるんだ?」と叱られるのです。

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 つまり『周りの人間が気持ちよく働ける環境にする』という思想がカラダの奥底に深く刻まれるまで、何度も何度も教え込まれるのです。

 社員の誰もが給与が、0円から数万円程度の月が何度もありましたが、貯金を切り崩しながら、借金を作りながら、1カ月、2カ月、半年、1年と永遠と働き蜂のように、お金を会社に運び続けてしまう社員は出てきて当然なのです。
 だってこんなに『居心地の良い職場』は、ほかにないのですから……。

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 これを『洗脳』と呼んでも差し支えないでしょう。
 なぜなら社長自身が「これは洗脳だよ」と公言していたからです。
 しかし社長は、みんなにこう言います。
「プロのスポーツ選手はみんな洗脳されているんだよ。洗脳があるからこそあんなに強いんだ! 強くなりたい人は洗脳が悪いって考えはやめようね!」
 すると、自ら洗脳されようとする人間も出てきます。

 トドメに社長は、例えばこんな夢物語を話します。
「みんなで成功者になろう! 頑張った社員は独立を支援するよ!」
 毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、「お金持ちになったら何をする?!」「みんなの夢を語り合おう!」という話を、みんなで話し合うのです。
 毎日毎日毎日……。

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 おかしな話ですよね?
 みんなおかしくなっているのです。

 そして、この夢物語を語り合ったあと、みんなは意気揚々と営業に向います。カラダから珍妙なオーラを放ちながら……。

 でも……この社長の言う『夢物語』実は誰も本心からは信じていないんです。いや……信じてはいるのですが、心のどこかに『正気の自分』っていうモノが誰でも残っているように思うのです。

 社長や周りの人に洗脳されていく中で、その『正気の自分』がドンドン小さくなるだけで、それがなくなったりすることはないのです。

 このクソブラック企業の課長として私は、数百人の部下と同僚を見てきました。誰もが心のなかに残している『正気の自分』を覗き込んで大きさを確認するのが私の職務でもありました。これが大きくなった時……それは別れの時。

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 では、社長の『正気の自分』はどうだっただろうか?
 社長は誰よりも自分を隠すのが上手でした。私が心を覗き込もうとするといち早く察知して自分を隠すのです。そして優しい笑みを私に向けるのです。

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 私達はクソブラック企業に騙され、洗脳され、いいように使われました。
 しかしみんな、心の何処かで『騙されたい』とそう願っていたから、『騙された』ようにも見えました。
 ウソでもいい!!! 何か生きる理由を!! 希望を!! 心の拠り所が欲しい。

 社長は私達に優しくささやきます。
「この会社にいればきっと成功できる」。
 そんな雑な甘い言葉に騙さたくなるほどにみな、外の世界に『絶望』していたのです。

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 1日十数時間にもおよぶ過酷な飛び込み営業。月数万円の給与で満足な食事をとれず。ケガをしても私は病院に行く事さえも出来ませんでした。
 結局……みんなボロボロになって会社を去っていきました。

 けれども私はこのクソブラック企業に救われたのです。
 子どもの頃から夢だった警察を去ることになったあと、私は自分が生きる価値のない人間だと思っていました。いつ天国に向かってもおかしくなかったのです。

 そんな暗く沈む私の身の上話を聞いた社長はこう言いました。
「お前は重い脳の病気を克服して、今、奇跡的に生きている! 警察を辞める事になったのも、きっと何か特別な使命があるからだ!」
 なーんて……。

 私はこのウソ臭くて安っぽい言葉を信じる事にしました。

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 そのお陰でこのクソブラック企業にいた約3年間、私は一度たりとも天国について考える事がありませんでした。
 不本意ながらもこのクソブラック企業がなかったら、私は確実に天国に旅立っていたでしょう。
 白か黒か灰色か? そんな色が混ざり合う本を書きました。
 読んでみてください。
 もう自分でも何が何色なのかわからないんです……。

文=ハルオサン

この記事で紹介した書籍ほか

天国に一番近い会社に勤めていた話

著:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784046020956