この学校には、3年に1度「サヨコ」がやってくる……。恐怖と青春の恩田陸伝説のデビュー作

文芸・カルチャー

2017/12/23

単行本
文庫

 後ろに誰かいるような気がしてふり返れない時のような「恐怖」と、高校生たちの友情や恋愛といった「青春」が、一冊の本の中で現れたり消えたりする一種異様な世界観を持つ『六番目の小夜子』(恩田陸/新潮社)。

 本作は日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となり「酷評され落選」し、文庫化されたものの、すぐに絶版になったという「数奇」な運命をたどっている。(その後、もう一度文庫化した)。

 後にドラマ化もして、今なお根強い人気と新たなファンを獲得している伝説の一冊でありながら、「華々しく大賞を受賞して、いきなり大ヒット」ではないところに、本作の「らしさ」があるように感じた。

 ホラーなのか青春群像なのか、明るいのか暗いのか、本作は実に境界線があいまいで、色で表すのなら全体的にグレー。けれど、場面ごとにとびきりの「黒」になったり、眩しいほどの「白」になったりする。その濃淡が激しくて、読者は本作をつかみきれないのに、物語は私たちをつかんで離さない。

 とある地方の高校では、3年に1度「サヨコ」という存在が現れる。見えざる手によって生徒の中から一人選ばれ、「サヨコ」になった者の「すべきこと」はたった一つ。それを成し遂げられれば「サヨコ」は勝利する。そして次の世代に「サヨコ」を引き継いでいく。――それが「サヨコ」に選ばれた生徒の役目だった。

「六番目」の「サヨコ」が現れる年、ウソのように美しく謎めいた津村沙世子(つむら・さよこ)という女生徒が転校してくる。「サヨコ」伝説を知る者、密かに関わっている者は、彼女の存在を怪しんだ。3年に1度の特別な年に「サヨコ」と同じ名前の生徒が、高校3年生の時に転校してくる。こんな偶然があるだろうか、と。

 彼女は一見、普通の女子高校生だ。強気で自己主張をはっきりする一方、陰湿なところがない。会話も上手で笑顔も魅力的。とびきりの美人なのに親しみやすく、才媛の彼女に誰もが惹かれた。

 津村沙世子のクラスメイトである関根秋(せきね・しゅう)も、一時は沙世子の存在を不思議に思う一人だったが、そんな沙世子の様子を観察して、「サヨコ伝説」と沙世子との関係の「疑い」を解く。

 しかし、数年前に「二番目のサヨコ」に選ばれながら、役目を果たす前に事故死してしまった女生徒の名前も同じく「津村沙世子」だったことを知ったことから、関根秋は「サヨコ伝説」にとらわれて、引き返せない「深み」にはまっていく。

 生徒にとって「高校時代」は二度と戻らない刹那の時間である。爽やかで愛おしく、どこか不安定で陰鬱な一面も持っている。一方で、その「舞台」である「学校」は「永遠」である。学校は生徒を見送り、また新しい生徒を受け入れ……それを淡々と繰り返す。一瞬の生徒と永遠の学校が合わさった時に、ひっそりと生まれてきたのが「サヨコ」なのだ。

 ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、学園祭の時に暗闇で行われる「呼びかけ」のシーンが、私は一番怖かった。何がスゴイかって、幽霊も出てこないし、登場人物は廃墟に一人でいるわけでもなく、全校生徒で体育館にいるのに、その異様な熱気・空気・不穏さが、井戸から女性が出てくるレベルで怖いこと。この場面を考えついた著者に脱帽である。

文=雨野裾