伊坂幸太郎初心者にオススメ! 口達者な家裁調査員が巻き起こす、ちょっぴりファニーな連作短編集

文芸・カルチャー

2017/12/24

『チルドレン』(伊坂幸太郎/祥伝社)

 口達者な奴はどいつもこいつも癪に触るものだが、伊坂幸太郎氏が描いたこの男だけはどうにも憎めない。『チルドレン』およびその続編『サブマリン』に登場する、超マイペースな男・陣内。いつでも彼は巧みな話術を武器に、周囲を自分のペースに引き込んでいく。一見、彼は、思い付いたことをただひたすら話続けているだけの調子の良い人間にしか思えないかもしれない。しかし、陣内を知れば知るほど、彼の独自の哲学とその正義感に、ほんの少し、尊敬の念を抱いてしまう。

 陣内が初登場する『チルドレン』は、連作の短編が5作収載されている。冒頭で描かれる「バンク」は、陣内がまだ大学生だった頃の話。陣内と友人・鴨居、盲目の青年・永瀬が、たまたま立ち寄った銀行で、銀行強盗に出くわし、人質となる物語だ。普通だったら、銀行強盗などに出くわしたら、恐怖のあまり萎縮してしまうところだろうが、陣内のモットーは、何事にも立ち向かうこと。銃を構える強盗たちに「この俺が、大人しくおまえたちの言う通りになると思うなよ」と歯向かったり、ともに強盗を取り押さえることを鴨居に提案したり、「緊迫した空気を、歌が和らげるんだ」と突然歌い出したりする。ちょっぴり痛々しいはずの言動は、陣内がすると、妙に勇ましい。周囲の人間は、そんな傍迷惑な陣内に辟易しつつも、その強い正義感をどうも嫌いにはなれずにいる。

 さらに続く、表題作「チルドレン」で描かれるのは、「バンク」から12年後、家庭裁判所の調査員になった陣内の姿だ。「心理学や社会学の技法を用いて、少年犯罪の原因やメカニズムを解明し、適切な処遇を裁判官に意見として提出する」家裁調査官としての役割を真面目に果たそうとする後輩・武藤と、「適当でいい」と言い切る陣内。「適当」で済ましているはずなのに、少年の心を掴むのが巧みな陣内は、武藤が担当する万引き高校生・木原志朗と父親のわだかまりを取り除くきっかけを作り出す。

 もしかしたら、陣内にとって、家裁調査員という職は天職なのかもしれない。「チルドレンII」で描かれた、陣内の言葉には誰もがハッとさせられることだろう。居酒屋で、管理職の会社員らしき中年男たちに絡まれた陣内たちは、「少年法はなってない」「駄目な奴は何をやっても駄目なんだよ。更生させるなんて、奇跡みたいなもんだな」と真剣な怒りをぶつけられる。そんな中年男たちに、陣内はこう啖呵を切るのだ。「俺たちは奇跡を起こすんだ」。「少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、少年法とか家事審判法の目的になんて、全部嘘でさ、どうでもいいんだ。俺たちの目的は、奇跡を起こすこと、それだ」。「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」「そもそも、大人が恰好良ければ、子供はグレねえんだよ」。

 ああいえば、こういう。いつも屁理屈をこねてばかりいる陣内は、決して友達にしたい存在ではない。しかし、なぜか気にかかってしまう。物事の本質をズバッと見抜く能力と、「適当」なようで、実直に仕事に向き合うその姿勢に、なんだかちょっぴり感動してしまうのだ。

 陣内が活躍するファニーな物語は、多くの人の心を温めるに違いない。普段小説を読む人も読まない人も、『チルドレン』は伊坂幸太郎初心者にオススメできる作品。心がぽかぽかと温められる短編集だ。

文=アサトーミナミ