愛する息子は人殺しなのか? 下村敦史『叛徒』は、通訳捜査官の葛藤を描く警察小説【作家バトル企画「RANPOの乱2018」参加作品】

文芸・カルチャー

公開日:2018/1/16

『叛徒(講談社文庫)』(下村敦史/講談社)

 江戸川乱歩賞出身作家の呉勝浩と下村敦史が、互いの新刊をめぐってガチバトルを繰り広げるWEB人気投票企画「RANPOの乱2018」。その戦いの火蓋が1月16日、ついに切られた。この1月に講談社文庫より刊行される呉勝浩の『ロスト』と下村敦史の『叛徒』という、ミステリー界でも勢いのある2大作家の長編が、ダブルカバーと著者自身のレビューをまとって、同時に書店の棚に並ぶのだ。

 本稿ではまっ黒なダブルカバーとともに刊行される、下村敦史の警察ミステリー『叛徒』について紹介しておきたい。物語の主人公・七崎隆一は、新宿署の通訳センターに勤務する中国語が専門の通訳捜査官だ。通訳捜査官とは、外国人が関与している事件の取り調べやガサ入れに立ち会い、会話を訳すのが仕事の警察官である。ある日、繁華街・新宿歌舞伎町の路地裏で、腹を刺された男の死体が見つかった。第一発見者は中国出身の王という人物。通訳にあたった隆一の前で、王は路地裏から水色のジャンパーを着た若者が出てくるのを見たと証言する。

 自宅に帰った隆一は、妻から中学生になる息子・健太が昨晩から外出したままだと知らされる。健太の部屋を覗くと、見慣れない水色のジャンパーがベッドの下に押し込まれていた。その胸元には大量の血がにじんでいる。まさか息子は事件の関係者なのか? 健太のパソコンを覗いてさらに疑いを抱くようになった隆一は、誰にも告げずに捜査を開始する。

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 下村敦史といえば、視覚障害者を主人公にしたトリッキーな長編『闇に香る嘘』で、2014年に第60回江戸川乱歩賞を受賞した新鋭である。デビュー第2作にあたる本書では、自らの正義のために警察官であった義父を告発した隆一が、息子をかばうため許されない行為に手を染める、というぎりぎりの状況を描ききっている。タイトルにある「叛徒」とは裏切り者のことで、自らの正義と家族愛のはざまで揺れる隆一の姿は、読者の共感を呼ぶはずだ。

 捜査が進むにつれて明らかになるのは、日本の外国人研修制度をめぐる闇。社会派的なテーマに深く切り込みながら、ミステリーとしての驚きを大切にするのは『闇に香る嘘』と同様である。あまり知られていない通訳捜査官という仕事(その気になれば捜査の行方すら左右できてしまう)に着目したのも、本書の加点ポイントのひとつだろう。

「RANPOの乱2018」の投票期間は、1月16日から5月14日まで。2作を読み比べてみて面白かった方に投稿するのはもちろん、特設サイトに掲載されている担当編集からのコメントなどを読んで「面白そう」と思った方に一票を投じるのもアリだ。詳細は講談社文庫の特設サイトをチェックしてほしい。

 最後に笑うのは呉勝浩か、下村敦史か。前代未聞のガチンコバトルから目が離せそうにない。

文=朝宮運河

●公式サイトはこちら:http://ranpo-ran.com