「働く人」必読の書! 営業のプロによる100本ノック

ビジネス

公開日:2018/1/17

『営業力100本ノック(日経文庫)』(北澤孝太郎/日本経済新聞出版社)

 マーケティングや戦略の授業は数多く存在するが、日本で最初に“営業”の授業を正規のカリキュラムに入れた大学は、東京工業大学なのだそう。何となく文系のイメージの強い“営業”という言葉だが、どうして最難関の理系大学である東工大が重要視するのか。その理由は、せっかく技術的に良いモノを創っても、肝心の“営業”を理解できていなければ売れないからだという。技術や商品が売れないということは、経営の存続とさらなる開発ができないということを意味するのだ。営業を科学的に捉え、体系化して論理的に考える力を身につけることは、職種や業務の内容を問わず重要なことだという。

 東京工業大学の大学院で、上述した日本初の営業の授業を担当する特任教授、北澤孝太郎氏の著書『営業力100本ノック(日経文庫)』(日本経済新聞出版社)をご紹介したい。リクルートの営業リーダーとして活躍した後、大手企業の執行役員を経験した著者が開発した、営業現場の生産性を上げるためのモデル(北澤モデル)に基づいた100本ノックは、幅広いレベルの読者の向上心に応えてくれる。そんな本書の内容を少し覗いてみたい。

■1本目「営業とは何かと問われたら、何と答えますか」

 

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 まずは基本のキ。「営業=売る」という安直な認識で、さらには「売る」という行為を、無理矢理お客様に押し込んだり、必要以上に汗をかいて人情に訴えたりすることだと捉えているようでは、正しい“営業”を理解し切れていないと著者は説く。そもそも営業とは、会社の「なりわい」、つまり商品を作り、それを売り、お金をいただき、次の商品の開発や仕入れにまわすこと全てを指すのだという。

 例えば、商品づくりの段階においても、顧客の状況をしっかりと理解したうえで作らなければ、せっかく商品化しても売れないことがある。営業の英訳は、「セル(Sell)」ではなく「ビジネス(Business)」なのだという。営業とは、顧客価値創造とマーケティング活動、それと売る(お金をいただく)という活動3つを合わせたもののことであり、非常に奥深く、ダイナミックな仕事なのだ。

■50本目「自社が創り出せる競合との違いは何ですか」

 モノを売るという一連の流れにおいて、競合他社との差異というポイントは非常に重要になる。競合との違いとは、つまるところ「顧客から見たときの印象」であると著者は説く。差異を明らかにするためにはまず、自社の特徴と競合の特徴を比較し、競合がターゲットの視点から見たときに好まれたいと思っている特徴を整理する必要がある。そのうえで、それとは明らかに違いを作れる観点を自社の持っているものから引っ張り出し、新たな自社の特徴にできないかを考えるのだという。その際に熟考するべき点は、「重要性」「独自性」「優越性」の3点だ。

 例えば、「料金は競合よりも圧倒的に高値だけれども、それ以上に驚くべき効果がある」というコンセプトを確立できたらその商品は売れる。効果という「重要」な点において、コストパフォーマンスが「優越」している商品を、「独自」に持っているからだ。ただしこれに、効果がイマイチである商品も混ぜて販売してしまうと、顧客に一貫性のない印象を与えてしまい、全体的な売れ行きも悪くなるのだ。商品の完成度を一貫して保つことは、競合との違いを明らかにするうえで非常に重要なのだという。

 上記以外にも本書には、具体的な顧客へのアプローチ方法や営業部の上司の心得、ダイバーシティという概念を営業に落とし込むためのノウハウなど、実に多岐にわたる営業のモデルが全部で100本収録されている。上述したように、非常にダイナミックな仕事である“営業”。営業マンは勿論のこと、大部分の「働く人」を成長させる“ノック”が本書には詰まっている。

文=K(稲)