子どもたちの「思いやり」を育てる絵本『ハンカチやさんのチーフさん』

文芸・カルチャー

更新日:2018/2/9

 昨年、雑誌『MOE』に掲載された作品『ハンカチやさんのチーフさん』(どいかや:著/伊藤夏紀:イラスト/白泉社)が絵本になりました。主人公のチーフさんはハンカチやさん。生地やリボン、刺繍糸などがズラリと並んだ店内で、お客さんからオーダーを受け、ハンカチを1枚ずつ手づくりしています。

 いろんなお客さんの役に立つハンカチ。どんなハンカチを作るかは、お客さんのオーダーによって違います。時には、手品用のハンカチを作ることもあります。お客さんは、さまざまな動物たち。文章では説明されていませんが、「この手品師はカエルさんかな?」と子どもたちの想像が広がるところも、この本の楽しみ方のひとつです。

 ある日、チーフさんは蜂のお母さんから、1歳を迎えた100匹の赤ちゃんにハンカチを作ってほしいとオーダーを受けます。赤ちゃんたちのために、ハンカチのふちにリボンを飾りつけるチーフさん。この本には、ページをそのまま額縁に入れたくなるような、まるでハンカチのようなとってもかわいいイラストがたくさん描かれています。自由自在にハンカチを作るチーフさんや、それを受け取るうれしそうなお客さん。眺めるだけでも心が踊ります。

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 チーフさんが作るハンカチはどれも、そのお客さんだけの特別な1枚。お客さんの想いを汲み取ってハンカチを仕立ることも、チーフさんの仕事です。蜂の赤ちゃんに、出来上がったハンカチを1枚ずつ渡すチーフさんはとても優しい表情をしています。そして、チーフさんが赤ちゃんたちに伝えたひと言で、蜂のお母さんは感動のあまり泣いてしまいます。思いやりが詰まったチーフさんのハンカチが、お客さんの心を動かすこともあるのです。

 蜂のお母さんの涙に詰まっていたのは、子どもたちのことを大事に思う気持ち。その想いに、子どもたちは気づいてくれるでしょうか。もしかしたら、もっと大きくなってから気づいてくれるのかもしれません。子どもの時も、大人になってからも、違う気持ちで楽しむことができる絵本です。

文=吉田有希