子育てに悩んだら読んでほしい——親子の葛藤を描いた直木賞受賞作『銀河鉄道の父』

文芸・カルチャー

更新日:2018/3/5

『銀河鉄道の父』(門井慶喜/講談社)

 親というものは自らの子を甘やかさずにはいられないものなのか。たとえ親の威厳を保とうと平静を装うとも、子の一挙手一投足に心揺り動かされてしまうものなのか。第158回直木賞受賞作・門井慶喜氏著『銀河鉄道の父』(講談社)は、『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』などの著作で知られる文豪・宮沢賢治の父親の姿を描き出した作品。

 現代人からすると、宮沢賢治には聖人君子のようなイメージがつきまとうが、親から見れば、彼は決して出来の良い息子ではなかった。しかし、どんな「ダメ息子」であろうと、親は子を愛さずにはいられない。息子に振り回されながらも無償の愛を注ぎ続ける父親と、その愛情に甘えながらも、父親を超えたいと葛藤する息子。不器用な親子の姿を描き出した傑作小説である。

 宮沢賢治は、明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた。生家は祖父の代から富裕な質屋。賢治の父・政次郎は、家を継ぐ立場である賢治に惜しみない愛情を注ぐ。賢治が赤痢にかかればつきっきりで看病し、「質屋に学問はいらない」はずなのに、賢治の望み通り、盛岡中学への進学を許す。当時の家長としての正しい姿と、息子を溺愛したいという思いとの間で、政次郎は葛藤していく。

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 何の役に立つかわからない「石」を集めることに熱中し、家業の質屋の仕事をすることになっても肌に合わず、事業を起こそうとするも上手くいかず、「おらは、信仰に生きます」と国柱会の布教活動に熱中する若き日の宮沢賢治。迷走を続ける息子を叱りはするが、政次郎は援助をやめることができない。そんな手のかかる子どもだった賢治が、作家として踏み出すシーンは胸にジーンと染み渡る。そして、長らく分かり合えなかった2人が心を通わしていくさまにも温かい気持ちになる。

 みとめざるを得なかった。子供のころから石を愛し、長じては、──人造宝石を、売りたい。という野望を抱いた二十九歳の青年は、ここでとうとう、ことばの人造宝石をつくりあげた。

 親の心、子知らず。しかし、子の心、親知らずでもある。不器用な親子の、それぞれの葛藤は、今子育てに悩んでいる人、そして、かつて子育てに悩んだ人の心に響くに違いない。知られざる文豪の姿が知れる、切なくも、温かい物語だ。

文=アサトーミナミ