暴力団員に日本刀を突き付けられる!? 一流家電メーカー「特殊対応」社員のスパイのような仕事

ビジネス

2018/2/26

『一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白(ディスカバー携書)』(笹島健治/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 日々、顧客の疑問や不満、怒りを受け止める企業のクレーム処理係。企業として対応可能な限度が定められている以上、全ての顧客の要望を叶えることは難しい。上司と顧客の板挟みに苦しむ彼らの苦悩を察するだけで、胃がキリキリと痛みそうだ。

 一般のクレーム対応であれば、サポートセンターに電話がつながり、オペレーターと話を進めることで解決を迎える。しかし、これはあくまで一般の顧客の話。とある一流家電メーカーには暴力団、新興宗教、会社の利害に大きな影響を及ぼす要人、海外VIPといった“厄介な顧客”を専門に扱う「特殊対応」という秘密部署が存在するという。

 そんな元特殊対応の著者が厄介な顧客に罵倒され、土下座を強要され、恫喝され、時には軟禁された日々を赤裸々に綴った一冊が『一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白』(笹島健治(ディスカバー携書)/ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。

 本書内に登場する個人名や企業名、商品名などは明かされておらず、一部架空の人物が登場する、対応の詳細を伏せている部分があるものの、全て実体験に基づいたエピソード。にもかかわらず、本書はハラハラドキドキするやり取りが展開され、時にはほっこり、思わず涙ぐんでしまうエピソードが盛り込まれている。まるで、短編小説を読んでいるかのような読み応えだ。

 そんな本書はプロローグから「ぶっ飛んで」いる。冒頭、著者が暴力団事務所内で組員から日本刀を突き付けられている場面からスタート。1ページ目から早速ピンチなのだ。その後どのようにして、この“厄介な顧客”と対峙し、指を詰められることなく帰還できたのか。是非本書を読んで確認していただきたい。

 数えきれないほどの土下座を繰り返し、時には警察に捜査協力を依頼されパソコン内のデータを探るなど、もはや何が仕事なのかわからないほど、多様な業務をこなした著者。しかし、本書で述べられている数々の功績について、世間はもちろん、会社の中でも知られていなかったそう。あくまでも、特殊対応の仕事はスパイのような隠密行動。どんなにツラい目にあって、無事に戻ってきたとしても、労いも賞賛の言葉もなかった。さらに、特殊対応は組織上存在しないことになっているため、人事評価に反映されなかったという。そんな環境で特殊対応にあたっていた著者のストレスは計り知れない。

 なぜ、著者は誰も褒めてくれない、ましてや人事評価にも影響を与えない仕事をこなせたのだろうか。それは「誰かがやらなければいけない仕事」だから。本心を言えばそんな理屈では納得できない。しかし、自分に言い聞かせることでいつしか深く考えるのをやめてしまった著者。彼はそのことを今でも後悔しているそうだ。

「本書で会社を告発したい」という想いで本書を書いたわけではない、と著者は語る。「理不尽なことには声をあげるべき」「もうダメだ、死ぬしかないなんてことはない、逃げ出せばいいんだ」というメッセージとともに、「人はどう働くべきか」を考えてほしいという。日本刀を突き付けられた経験がある著者の言葉だからこそ、その重みが感じられるはずだ。

 読み物としても十分に面白い本書。手に取り、読んでみることで、今の自分の仕事について改めて考えるきっかけになるだろう。

文=冴島友貴