歴史を学ぶことは「人生の武器」になる。世界と日本を理解すると仕事に効く

ビジネス

公開日:2018/3/7

『仕事に効く教養としての「世界史」』(出口治明/祥伝社)

泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん)
たつた四はいで夜も寝れず

 1853年、ペリーがはるばる日本に来たのは何のためだったのか? たった4隻の黒船(蒸気船)に江戸幕府が揺らいだ狂歌は知っていても、その理由や背景を、日本史の知識だけでは答えられない。
 本書『仕事に効く教養としての「世界史」』(出口治明/祥伝社)から先にタネ明かしをしてしまうと、当時、新興国アメリカは中国との貿易を巡って大英帝国と深刻なライバル関係にあった。そのために、英国の影響を受けない太平洋側の航路を開拓する必要があった。日本はたまたまその重要な中継地点にあったのだという。したがって、本当の狙いは中国、覇権を争う相手は英国。アメリカ史の視点ではこのように見えてくるのだ。

 こんな風に日本史は世界史全体の中に位置付けてみないと、正しく理解することはできない。世界史から日本史だけを切り離すことなどできないということだ。
 そのようにして日本を眺めると、改めてその小ささ、地理的な位置付け、そして文化が、相対化され新鮮な姿で立ち上がってくる。本書は世界史のさまざまな断面にスポットを当て、幅広い視点からそれらを描いてみせる。
 例えば、「神は、なぜ生まれたのか」「中国を理解する4つの鍵とは」「ドイツ、フランス、イングランド――3国は一緒に考えるとよくわかる」などなど。

■日々のニュースの見え方が立体的でカラフルになる!

 中でも出色は第9章「アメリカとフランスの特異性――人工国家と保守と革新」と感じた。

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 フランスもアメリカもそれまでの政治体制に疑問を感じ、大いなる理想を掲げた人々が打ち立てた国という共通点がある。先祖と歴史の重み、人間としての当たり前の心情をあえて断ち切った人工国家だと著者はいう。その2国の間でもより深い歴史を抱えるフランスは、行き過ぎた理想主義への反動もあって保守主義が台頭した。
 一方、新大陸のアメリカは、フランス革命の影響も受けながらあくまでも理想主義を掲げた究極の人工国家。両国の間には、似ているけれども異なる立場から、近親憎悪のような感情がある――。著者はそう分析する。

 こんなバックグラウンドを得て日々のニュースに接すれば、アメリカのダイナミズムや特殊さ、またヨーロッパの政治と歴史の複雑さも一層深みを帯びて見えてくるのではないだろうか。

 さて現代――。そのアメリカはトランプ大統領を生み出し、そして別の意味での人工国家ともいえる北朝鮮の金正恩委員長と危なっかしい舌戦を繰り広げている。

■長い歴史から俯瞰してみると、日本は「普通の国」に戻りつつある

 日本は歴史上初めての本格的な人口減少時代を迎えている。不安な要素は多い。しかし著者はいう。

「人口が一貫して増え、高度成長が続き、戦争もなく、ほぼ10年ごとに所得が倍増するような豊かな時代は世界史の中でもほとんど例がありません。これほどいい時代がいつまでも続くと考える方がどうかしている。ですから、いまの苦しさは、むしろ日本が普通の国に戻ったのだ、と考えるほうがいいと思います」

 なるほど、本当にそう思う。いたずらに不安に陥ることはない。本書からは、“仕事に効く”冷静で幅広い視点と教養に加え、歴史を学ぶことで得られる「将来へのヒント」「人生の武器」がきっと得られるだろう。

 ご存じの方も多いと思うが、著者の出口治明氏は、大手生保会社勤務の後、50代にして日本で初めてのインターネット生命保険、ライフネット生命を起業した「おじさんの星」みたいな人だ。また、2018年からは立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任し、第3のライフキャリアを歩んでいる。69歳で実業界から大学学長という異例のチャレンジ!

 僕たちは、出口さんの歴史への深い造詣から人生を生きる武器を得て、また出口さんの行き方そのものからは人生の勇気をいただくことができるという幸運な時代を生きている。

文=直