『ラブライブ!』ほか、近大2年の講義内容を収録! 週30本アニメを見るオタクも感服の内容とは?

アニメ

公開日:2018/3/9

 東京オリンピックのマスコットキャラクターが決定した。それは実に「アニメ」のようなキャラクターだった。前回大会(リオ・デ・ジャネイロ)の閉会式で流れたイメージ映像も、アニメやゲームなどを多分に意識した作りだったので妥当なところといえよう。しかしこのような国際的なイベントで前面に打ち出すコンテンツとして、本当にアニメは日本で「文化」として認識されているのだろうか。「文化」とは民族の価値観の総称で、世代を超えて継承されていくものだとされる。ならば、「学問」として研究することも可能なはずだが、果たしてどれだけの人がアニメを「学問」の対象として捉えているのか。おそらくそれは、ごく一部の少数派であろう。しかしその極少数派によって、アニメが「学問」たりうることが示されてきている。『教養としての10年代アニメ 反逆編』(町口哲生/ポプラ社)の著者・町口哲生氏もそうした人物のひとりである。

『教養としての10年代アニメ 反逆編』(町口哲生/ポプラ社)

 町口氏は文芸評論家であり、専門は哲学・現代思想。しかしその名を世間に知らしめたのは、近畿大学で氏が担当する講義の受講条件だろう。それが「深夜枠を中心に週に20本以上『アニメ』を視聴しておくこと」だ。そう、この講義はアニメ作品をさまざまな角度から分析し、その内容を深く掘り下げることを目的としているのである。

 本書は『教養としての10年代アニメ』の続編なのだが、前著は町口氏曰く「シリーズの序章」という位置づけである。それは大学1年生向けの講義内容を書籍化したからで、本書は2年生向けの講義内容を収録。ここから内容が「本格的」になっていくのだ。

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『教養としての10年代アニメ』(町口哲生/ポプラ社)

 確かに前著では『魔法少女まどか☆マギカ』『ソードアート・オンライン』など一般的に知名度の高い作品が多く取り上げられていたが、本書では『ラブライブ!』など有名どころのほかに『STAR DRIVER 輝きのタクト』や『ユリ熊嵐!』といった知る人ぞ知る作品も顔を揃えている。これはその作品に対し、町口氏が講義で取り上げるに足るテーマを見出したからであり、相当な知見をもってアニメに相対していることがよく分かる。

 例えば『STAR DRIVER 輝きのタクト』に関していえば、物語に存在する「巫女」の扱いに対しては民俗学者・柳田國男の『巫女考』などを例に引いて考察。「表巫女」や「裏巫女」がどのようなものかを確認することで、物語に秘められた設定を分析した。単純にロボットアニメとして見れば「佳作」の範疇を出ないが、作品内に散りばめられた多くの要素に目を向ければ、それは氏のいう「希有な作品」となりうるのである。

 町口氏は作品の内容のみならず、作品がもたらす社会現象にも目を向ける。『ラブライブ!』は大ヒットコンテンツだが、アニメの完成度のみが注目されたわけではない。作品のキャラクターを演じた声優たちによるライブ活動も、人気の原動力であった。アニメ単体だけを見るのではなく、そこから派生したコンテンツも考察して日本のポップカルチャーの全体像を把握することが、氏が目指すところなのだ。

 本書を読めば、町口氏がひとつの作品に対してかなりの時間を費やしていることが分かる。「寝る時間? それはうちのレイモンド(注:氏の飼い犬)に任せなさい」などとまえがきにあるが、本当にそうしているのかもしれない。しかし先生、今も週に30本程度のアニメを観ている私ですが、実際マジでキツいです……。

文=木谷誠

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