羽生結弦のプログラム「SEIMEI」はなぜ、人を感動させるのか?

エンタメ

2018/3/17

『氷上秘話 フィギュアスケート楽曲・プログラムの知られざる世界』(いとうやまね/東邦出版)

 平昌オリンピックでも大いに盛り上がったフィギュアスケート。

 世界中から集まったフィギュアスケーターが、アスリートとしてパフォーマーとして力を出し尽す姿に思わず拍手し涙を流してしまう。

 どの選手も素晴らしかったのはもちろんだが、その中でも2度目の金メダルを手に入れた羽生結弦選手はすごかった。誰もがケガの影響を心配する中で、以前と変わらない強さで戻ってきた羽生選手の姿に胸を熱くした人も多いだろう。

 先日発売された『氷上秘話 フィギュアスケート楽曲・プログラムの知られざる世界』(いとうやまね/東邦出版)は、プログラムの裏側にある曲の物語や振り付けの意味などについて書かれている。

 羽生選手のフリープログラム「SEIMEI」についても詳細に分析されており、プログラム前半について「メインテーマの終わりに聞こえる不協和音は、『結界』が破られた瞬間を彷彿とさせる。ここに“戦い”がはじまるのだ。荒々しい和太鼓のリズムに、重心を落としたすり足ステップは、能・狂言にも通ずる足運びだ。劇中の戦闘シーンからヒントを得たものだという」と書かれている。これは物語のはじまり、そして戦いのはじまりを意味している。

 後半部分については「演技はいよいよ高難度のジャンプが連続する終盤に入っていく。劇中ならば『最終決戦』とも言えよう。羽生の繰り出すステップワークは無敵の呪を次々とかわしていく。そしてハイドロブレーディングで氷上に五芒星の結界を張っていくのだ。都を包み込む暗雲は、イナバウアーで切り裂かれ、天から光が差し込む」と記述されており、プログラムを通して戦いのはじまりから決着までをどう表現しているか、そして物語がどう進行していくかが解説されている。

 本書には羽生選手のプログラムに限らず、世界中の選手たちのプログラム、そしてそのこだわりについて詳細に書かれている。読んで思うのは感動的なプログラムには、きちんとしたコンセプトがあるということ。

 オリンピックに出るような一流選手のプログラムには、選曲から編曲、物語とそれに合わせた振り付け、衣装にメイクと全てにおいて一流のスタッフがつき、フィギュアスケーターを引き立てるべく考え抜かれている。一流のスタッフたちが集まり、一つの作品を完成させているのだからジャンプばかりに目をやって見逃すのはもったいない。

 本書を読んでプログラムについて詳しく知りアートな側面からもフィギュアを楽しんでほしい。また一つフィギュアスケートの奥深さを感じられるのではないだろうか。世界選手権も近い今、ぜひ目を通していただきたい良書だ。

文=舟崎泉美