今やっていることは、本当にやりたいことですか? 女性たちのリアルな仕事事情

暮らし

公開日:2018/3/26

『女と仕事 「仕事文脈」セレクション』(仕事文脈編集部/タバブックス)

「女性の社会進出」が当たり前になりつつある現代において、ライフスタイルが変わりやすい女性が一生男性と同じように働き続けるのはハードルが高いのも事実。女性ならではの悩みや葛藤もある。そんな女性たちがどんな仕事観を持っているのか、気になったことはないだろうか?

 さまざまなバックグラウンドを持つ女性の仕事観に焦点をあてた1冊が、『女と仕事 「仕事文脈」セレクション』(仕事文脈編集部/タバブックス)だ。収録されているのは、“女と仕事”をテーマにした書き手の個人的なエピソード。リトルマガジン『仕事文脈』「女と仕事」特集号に掲載された女性の書き手の文章や作品を中心に、再編集して書籍化された。

 本書で印象深いのは、書き手の職業や年齢にまったく偏りがないこと。彼女たちに「女性である」こと以外の共通点はなく、それぞれが自由に自らの職歴や仕事観を語っている。「こうあるべき」という価値観の押し付けがないのが読み手にとっては心地よく、実に俯瞰的に“女と仕事”の色々を体感できるのだ。

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 そんなわけで、“女と仕事”がテーマではあるが、本書に登場する書き手のすべてがバリキャリを目指しているわけではない。彼女たちの文章には、「仕事頑張らなきゃ」と気負いすぎている私たちの肩の力を抜いてくれるゆるさがある。

 たとえば、「ダメ人間がフリーランスになって1日で1ヶ月分を稼ぐ方法とは?」の書き手である、デザイナーの石嶋未来さん。冒頭から「できれば働きたくありません」と本音を漏らし、独立後はいかに最小限の労働で食べていくかを毎日考えていたという彼女は、試行錯誤の末、一極集中で仕事の時間を短くするという仕事のやり方が自分には合っていると悟る。

「朝起きられない」「電話や打ち合わせが面倒くさい」という自分の欠点を直そうとするのではなく、“苦手なことをしなくてもいいように”と考えた結果だそうだ。働いているとどうしても自分の欠点に目がいき自己嫌悪に陥りがちだが、石嶋さんの「一度きりの人生、やりたいことをやってもいい」という仕事観には背中を押される想いがする。

 他にも、フリーで動ける時間を確保するために、さまざまな野外イベントでの救護や訪問入浴に出向く“ノマドナース”として働く看護師・谷口美紀さんの働き方に新しい発見をしたり、自分に合う仕事を見つけるために転身、転職、引越(海外にまで!)、起業をするIT Niche 36 LLC代表の金子一代さんの行動力に驚かされたり…本書を通じて女と仕事の世界はどこまでも広がっていく。

 会社員の中島とう子さんが退職する後輩に「中島さんみたいになりたくて、今まで頑張ってきました」という言葉をかけられるエピソードは、日々私たちがこなしているどんな仕事にも意味はあるのだと教えてくれる。

 女がふつうに仕事をしていくのは難しい。けれど、状況に応じて柔軟に生き方を変えることができるのは女ならではの強みなのだと、本書に登場する女性たちは教えてくれる。誰かから見て正しくなくてもいい、どんな時も勇気を持って一歩踏み出せる自分でありたいと思わせてくれる1冊だ。

文=佐藤結衣